【連載】企業革新戦略−上昇志向の企業革新−

■第1回:革新の方向性を決定する(1)

◆はじめに

長期化し出口の見えない景気低迷が続いています。このような状況の中でも、勝ち残る企業は常に自社のあり方を革新し続け、新たなビジネスチャンスを獲得していっています。
今回から1年間、「企業革新戦略−上昇志向の企業革新−」と題して、勝ち残るための革新戦略を紹介していきます。今月号と来月号では、企業が今後進んでいく方向性を検討するための考え方を解説していきます。

◆革新が求められる背景

革新と改善は全く意味が異なります。改善はより効率かつ安定的に事業を展開していくために「ムリ」「ムダ」「ムラ」を徹底して排除していくものです。これは事業を取り囲む環境が安定的であるときには有効ですが、今日のように環境が根本的に変化しているときにはあまり効果的ではありません。激変する環境下では、企業のあり方そのものを根本的に再検討する「革新」が必要となってきます。

図1:下請企業の受注量・受注単価の前年同月比推移

なぜ改善ではなく革新でなければならないのかを、わが国の下請企業の現状を例にとって考えてみます。
図1のグラフは91年を100%とした場合に、下請企業の受注量・受注単価はどのように変化しているかを示しています。受注単価は91.0%、受注量に到っては76.8%にまで下落しています(図1)。
これを発注金額ベースに置き換えると、69.9%、つまり約3割も国内全体の下請企業に対しての発注金額が減少していることになります。

このような状況で少々の改善やリストラを実施しても、その効果は限定されてしまいます。今までのやり方、考え方を徹底して見直さなければならない時期に来ているのです。

今回テーマとしている「革新」とは極端な言い方をすれば、昨日までの成功体験を捨て、将来予想される経営環境に適合するための新たな企業のあり方を検討し、その実現に向けて戦略的に事業を推進していくことに他なりません。

◆なにが起きているのか:経営環境の変化をとらえる3つの視点

革新の方向性を考えるためにまず取り組まなければならないのが、経営環境は今どのように変化しており、今後どのような方向に行こうとしているのかを把握する作業です。ほとんど全ての経営者が自分の会社が置かれている環境の変化を「よく知っている」とおっしゃいます。しかし、実はそれは先入観などのせいで偏っているのが通常です。
思い出してみてください、製造部門の中国への移転は15年以上前から起こっていたはずです。その頃、皆さんはその現象についてどう考えていましたか?進出した企業の失敗談ばかりを耳にして、労務管理や資材調達の面で上手くいくはずがないと考えていなかったでしょうか。もう一度、まっさらな視点で経営環境の変化をとらえてみましょう。

図2:経営環境の変化をとらえる3つの視点

経営環境の変化は大きく3つの視点でとらえます(図2)。

【1.マクロ環境の変化】
マクロ環境とは社会全体の環境のことを指します。GDPや消費者物価指数、民間設備投資動向などにあらわれる経済的な要因、規制緩和や法律・条令などの改正にあらわれる政治的な要因、社会全体の価値観の変化や流行などにあらわれる社会的な要因などです。これらがどう変化してきたか、今後どう変化しそうか、そしてそれが事業にどのように影響を及ぼそうとしているかをしっかりと検討してください。

【2.市場環境の変化】
マクロ環境の変化をうけて、市場規模や市場成長率、販売価格動向や収益性がどのように変化してきているかを検討します。また、流通チャネルの変化や売れ筋商品の変化、新製品や代替品の登場の動向などもあわせてチェックしてください。

【3.競合環境の変化】
ライバルはどのように環境変化に対応しているのかを検討しましょう。この場合、直接のライバルではなく、業界の大手企業の動きに注目します。大手企業はどのような設備投資を行なっているか、どんな戦略を打ち出してきているかを見ることで、業界全体がどちらの方向に行こうとしているのかを検討してください。

◆自社の強みはなにか:革新を支える根本的な力
図3:自社の強みを見つける3つのステップ

変化している環境下で勝ち残ろうとするならば、自社の本当の強みを見つけ、その強みを武器にして革新をはかっていく必要があります。自社の強みは次の3つのステップで検討していきます(図3)。

【1.本当の顧客は誰なのか】
まず自社の本当の顧客を探し出しましょう。本当の顧客とは、自社が提供する商品やサービスのエンドユーザーであり、リピートオーダーが多く、かつ適正な利益を与えてくれる顧客層を指します。売上高が大きくとも単発の注文であったり、赤字になるほど値引要求をする顧客ではありません。売上高のみを物差しにすると誤りますので注意が必要です。
このような本当の優良顧客は特定の業種・業態やある一定の規模、地域、社歴の長さなど何らかの特徴がありませんか。あれば、その業種・業態や規模が、自社が強みを発揮できる本当の顧客層です。また、それに似ていると分類される見込み客が、自社にとっての次の優良顧客候補です。

【2.その顧客に自社が提供している価値は何なのか】
では、そのような本当の顧客はどんな理由で自社を選んでくれているのでしょうか。自社を選択することで、顧客は何らかのメリットあるいはベネフィット(便益)を得られるからこそ発注しているはずです。顧客満足度調査やインタビューなどを通して、顧客が感じている本当の価値を発見してください。なお、この際に営業担当者や設計担当者が知っているだろうと考えて社内で済ましてしまわないように。必ず顧客の本当の声を集めなければなりません。

【3.その価値を生み出すことができている自社のノウハウや能力は何なのか】
見出された価値は合理性や効率性、他社商品と比べた場合の費用対効果、あるいは快適性やブランドだったりするでしょう。ではその価値を生み出している自社の力は何でしょうか。製品開発能力やマーケティング力、生産設備の稼動体制、あるいは特許やブランドなどいろいろなものが考えられます。顧客に支持されている自社の本当の強み、能力を見つけ出しましょう。

次回は、今回検討した経営環境の変化と自社の強みを基に、企業革新の基本戦略を立てていく方法を考えていきます。