【連載】企業革新戦略−上昇志向の企業革新−

■第2回:革新の方向性を決定する(2)

◆はじめに

先月号では自社が置かれている経営環境の変化状況を検討した上で、革新を成功させるための根本的な力である「顧客」「提供価値」「ノウハウや能力」という3つの自社の強みを検討しました。今回はこの経営環境の変化と自社の強みを基に、企業革新の基本戦略の考え方を述べていきます。

◆アンゾフの成長マトリクスに基づく4つの方向性

革新を図るときには、まず自社の「ノウハウや能力」面での強みが「顧客」に対して中心的に働いているのか、それとも「提供価値」という商品・サービスを通じて実現されているものに対して強く働いているのかを検討し、これを基に基本戦略を考えていきます。図1はアンゾフという有名な学者によって考えられた「成長マトリクス」というものです。縦軸に商品・事業、横軸に市場・顧客層をとり、「新製品開発」「市場浸透」「多角化」「市場開発」という基本戦略の4つの方向性を示しています。

図1:アンゾフの成長マトリクス

【新製品開発戦略】
既存の顧客層に対して、新たな商品を提供していくことで革新を図ろうとする戦略です。この戦略を採る場合、製品開発能力という面での能力やノウハウよりも、いかに既存の顧客を知り抜いているかという顧客管理・分析能力の方が重要です。既存の顧客の考え方や業務プロセス、ニーズや購買能力などを十分理解した上でなければ新商品の提供は上手くいきません。商品自体は自社で開発しなくとも、外部から導入することも可能です。

【市場浸透戦略】
既存の顧客に対する既存商品の展開を、今よりも徹底して行なっていくことで革新を図ろうとする戦略です。この戦略の場合、顧客と商品は変えずに、いかに効率よく事業を展開していくかということが主眼となります。つまり、現状の事業運営の方法を徹底的に見直していくことで、より売上と利益を確保していこうとする戦略になります。見直す対象は製造・販売・仕入・物流など事業の各段階における運営手法や組織形態などになります。当然、アウトソーシングやアライアンス(業務提携)なども検討の対象となります。

【多角化戦略】
新たな顧客に新たな商品を提供していく、つまり新規事業で革新を図ろうとする戦略です。この戦略は従来自社に存在しなかった事業分野への進出となるわけですから、前回検討した経営環境分析を徹底して行なった上で、新たな事業モデルを構築して参入する必要があります。また、強みの内でノウハウや能力面が何らかの形で有効に機能する必要があります。基本的には非常にリスクの高い戦略ですので、十分な検討を加えずに実行に移すことは避けるべきです。

【市場開発戦略】
既存の商品を使って新たな顧客層を開拓していくことで革新を図ろうとする戦略です。この戦略の場合に重要な強みは、自社の商品の「提供価値」です。自社の商品やサービスが既存の顧客に対して、どのような価値を提供しているから採用されているのかを徹底して検討する必要があります。つまり自社が提供している商品のメリットを検討し、そのメリットを認めてもらえるような顧客層を探索することが成功の鍵になります。そして、そのような新たな顧客層(見込み客層)を開拓していくための営業戦略の構築と実施によって革新を実現していきます。

◆経営資源を活用する9つの視点
図2:経営資源から考える9つの視点

企業革新の基本戦略の方向性が定まったならば、それを実践するための方法を検討していく必要があります。実践方法の検討とは、自社の限られた「ヒト」「モノ」「カネ」ならびにノウハウや情報などの「ナレッジ(知的資源)」という4つの経営資源をいかに活用していくか具体化するということです。

図2にそのための9つの視点を挙げています。それぞれについて簡単に解説しますので参考にしてください。



1.転用今ある資源を他の使い方に転用していくという考え方です。過剰設備の転用や遊休不動産の有効利用、人事異動、ノウハウの新商品への活用などがこれにあたります。
2.借用他社の特許のライセンス利用や公設試験研究機関の設備利用、あるいは競合する商品の模倣やリバースエンジニアリングなどカネをできるだけかけずに自社に導入していく考え方です。海外や他地域などで成功している事業モデルを研究して自社のものとするなどもこれにあたります。
3.改良既存商品の改良やマーケティング手法の改良、生産手法の改良など、大規模な経営資源の追加投入を行なわないで、より高度なものにしていく手法です。
4.拡大販売チャネルや対象顧客層の拡大、商品ラインナップなど既存のものをベースに周辺部分を大きくしていく考え方です。
5.縮小既存の資源で有効活用されていないものを縮小させていくことで効率化していく手法です。コストダウンや生産設備の縮小などの他に、販売チャネルや顧客の絞込み、商品ラインナップの特化などもこれにあたります。
6.代用・代替正社員からパート・アルバイトへの変更、原材料・部品などの代替品への転換、事務作業などのアウトソーシングなどで効率化していく手法です。
7.移動人事異動などによる組織構成面での経営資源移動や、営業活動地域の移動、生産拠点の海外移転、原材料仕入地域の変更などの物理的・地理的な移動による資源活用の効率化の考え方です。
8.逆転賃金制度の固定給から成果給への逆転や、拠点型の自社営業から代理店型のチャネル営業への転換、競合企業との共同物流などの方針面での逆転などにより、新たな効果を生み出そうとする考え方です。
9.統合事業の統廃合や他社との戦略的アライアンス(提携)などの組織面での統合による経営資源効率化や、販売チャネルの一本化や代理店制度の見直しなど拡散している資源を集約化することで効果をあげようとする考え方です。

次回からは革新を推進するための具体的な方法を検討していきます。まず来月号では、公的機関や制度をいかに有効活用して行くかについて検討します。