【連載】企業革新戦略−上昇志向の企業革新−

■第7回:ヒトを革新する

◆はじめに
図1:21世紀は人的資本の時代

企業の成長と発展を実現する本当の基盤とは何でしょうか?企業が保有する工場や土地建物のような有形資産でしょうか。それとも企業が築き上げてきたブランドや特許、ノウハウに代表されるような無形資産でしょうか。確かにこれらの資産はそれぞれ重要です。しかし、これらを営々と築き上げてきた主体は何でしょうか。それは皆さんの企業の従業員の方々です。ヒトという経営資源こそが企業の本当の基盤であると考えるべきです。従来のような大企業を頂点としたピラミッド型の下請構造が崩壊し、中小企業といえどもそれぞれの独自性を発揮しなければならない生き残れない時代において、企業はヒトという経営資源が産み出す価値にあらためて注目する必要があります。

◆ヒトを大事にしない人事制度改革は企業を疲弊させる

景気低迷が長期化すると必ずといってよいほど、いわゆる「成果主義」がもてはやされます。成果主義の本来の目的は「出る杭を伸ばす」ことにあるはずなのですが、景気低迷期にもてはやされる成果主義にはこれとは異なる誤った危険な考え方が透けて見えます。それは「人件費削減のための手段としての表面的な成果主義の利用」という考え方です。

成果主義自体は決して悪い人事制度ではありません。しかし制度採用の本音が「人件費の削減」や「リストラのための手段」である場合、従業員のモチベーション(やる気)は急激に減退し、企業の創造力や発展力を阻害します。モノならびにカネという経営資源を多く保有しない中小企業にとって、これはヒトという経営資源と、ヒトが生み出すノウハウや差別的優位性を放棄するという致命的な事態となりかねません。

図2:失敗する人事制度改革の5つのタイプ

また実際には中小企業は大企業と異なり、年功序列型の人事制度などそもそもほとんどの企業が採用していません。年功序列が許されるような余裕のある経営状況の企業は少なく、自然と実力主義に基づく人員編成になっているのが大部分です。従業員が互いに何をしているのか、どのような実力を持っているのかが常に相互に把握されている中小企業においては、仕事面で尊敬を受けない人間は自然と淘汰されているのが現実です。このような現状を無視し、「成果主義」とは名ばかりの人件費削減のための人事制度を持ち込んだならば、せっかく自社のために働いてくれている従業員のモチベーションやロイヤリティ(忠誠心)をないがしろにしてしまう結果となります。

企業をヒトの面で革新するということは、ヒトを育て、伸ばすということであって、流行の人事制度を取り入れることではないということを理解してください。

◆革新に向けての行動モデルを設計する

それでは中堅・中小企業で人材を革新しようとする場合には、どのような注意点が必要となるでしょうか。

【1.経営ビジョンに基づく各職種・職能ごとの役割モデルを明確にする】
企業革新を進めるために従業員を革新したいと考えるならば、最初に行なわなければならないのは、自社がどのような方向に進もうとしているのかを経営ビジョンという形でして示すことです。そして、そのビジョンを実現するために各職種・職能で求められる役割は何であるのかを、経営陣は従業員に具体的に示さなければなりません。

【2.各役割モデルに求められる具体的な行動を示す】
次に、各役割に求められる具体的な行動基準を示す必要があります。ヒトを革新するとは、短期間で従業員の業務遂行能力を計画的に向上させることです。そのためには、どのような業務をいつまでに、具体的にどう変えるのかを示す必要があります。そうでなければ、従業員にとって自分は何をどう革新すればよいのかわからなくなってしまいます。ヒトの革新とは必ず企業の革新と連動して実施されるものであり、経営者は企業革新を実現するために必要な業務と行動とは何かということを、従業員に対して具体的に示す必要があります。かけ声だけでは何も変わりません。

【3.革新は結果評価ではなくプロセス評価で可能になる】
従来の人事評価は成果=結果に対する評価が大多数かと思います。しかし、結果に対する評価では、どのように考え、どのように行動したかが検討されません。ヒトの革新とは従業員の行動、あるいはその行動に到った考え方そのものを変えていくということです。そのためには、それぞれの従業員が自身の役割モデルに応じた行動というものをどのように考え、どのように実行しているかということを評価する必要があります。このような業務遂行のプロセスに関する評価を行なうことは、「命令されて業務を行なう」状態から「自分で考えて業務を行なう」ように変え、自律的な人材への革新を促進するという効果があります。

【4.キャリア・パスではなくスペシャリティ・パスとライフステージ・パス】
中小企業において従業員の長期の育成を考える際には、大企業のようなキャリア・パス(どのようなキャリアを積んで出世していくか)の考え方では上手くいきません。むしろ、どのような専門性をどのような順序で習得していきたいか、家庭までも含めた人生設計を実現していくために職場においてはどのような将来像を描こうとしているのかを、従業員自ら考えさせ、表明させるべきです。そしてその実行を会社が制度としてサポートしていくことが、優秀でロイヤリティをもった人材を確保・育成していく早道です。

(なお、行動モデルの構築に関しては、当コラムに「人材育成をもう一度考える」として詳しく書いています。そちらもご参考になさってください)

◆ヒトを動かし変えるのはコミュニケーション

企業の革新においては、従来の仕事の進め方なども根本から見直す必要も生じます。従業員にとっては出来ればやりたくないというのが本音でしょう。粘り強く経営者側から革新の必要性をあらゆる機会を見つけて説明し続けることで、従業員ははじめて理解し、動き、変わってくれます。一度や二度の説明や命令では革新に向けての活動は生まれません。

さて、従業員が変わるのですから、それを率いる経営者もやはり変わっていく必要があります。次回は経営者自身の革新について考えていきます。