【連載】企業革新戦略−上昇志向の企業革新−

■第8回:経営者自らを革新する

◆はじめに
図1:経営者に要求される能力

企業革新を進めていくにあたっては、経営者自らも従来のスタイルから脱却する必要があります。好況期であれば、経営者に最も求められるのは、企業という組織をいかに効率的に運営していくかというマネジメント能力です。当然、企業革新においてもこのようなマネジメント能力は求められますが、変化の激しい時期にはそれよりもさらに求められるものがあります。関係者を同じ方向に向かわせ、新たな方向に引っ張っていく能力、つまりリーダーシップです。

好況期であれば、マネジメントさえしっかりやっておけば自然と企業は成長して行けました。しかし、現在のような将来に対する見通しが立ちにくい時代においては、経営者はそのリーダーシップによって、企業を新たな方向に進ませていく必要があります。なお、リーダーシップとは色々な意味が含まれる言葉ですが、本稿では「進路を示し、牽引していく能力」と規定して考えていきます。

◆革新を推進するためのリーダーシップ
図2:視野の高いビジョンを有する企業が伸びる(1/2)

企業の革新を推し進める上で、経営者に求められる最も重要なリーダーシップ発揮の場面は、革新が成功したあかつきには企業はどのような姿に変貌しているかを、経営ビジョンという形で明確に提示するというスタート時点です。そして、そのビジョンを企業内に浸透させ、従業員のモチベーションを高め、革新活動を持続させるという運営場面です。

企業革新を実現する上で経営者が最初に示さなければならない経営ビジョンには、【企業の価値観】【企業の目的】【企業の目標】という3つの要素が含まれている必要があります。統計的にも、このビジョンが、より高い視点での価値観や目的を有しているほど、企業が成長しています。

【1.企業の価値観】
自社が事業を行なっていく上で、最も大事にしている考え方・原則です。例えば「常に技術的リーダーであり続ける」「地球環境との共生をはかる」などがこれにあたります。この価値観は自社の本質を表すものであり、未来永続にわたって変わらないものです。企業の価値観は、社会や顧客とどのような関係を持とうとしているのかという関係性から考えるか、あるいはどのような企業の運営理念をもっているのかという理念から考えていくと明確化しやすくなります。

【2.企業の目的】
自社が企業活動を行っている根本的な目的です。自社が究極的には何を行う集団であるのかという、自社の根本的存在理由になります。どのような業種・業態を採り、どのようなことを成し遂げようとしているかが示される必要があります。例えばアミューズメントパークであれば「人々を幸せにする」ことが目的でしょうし、筆者のようなコンサルティング会社であれば「クライアントの一層の発展に寄与する」ことが目的となるでしょう。

【3.企業の目標】
革新活動を行なっていく上では、従業員を中心とした企業活動に関わる全ての人々に対して、明確で説得力のある達成目標を表明する必要があります。この達成目標は【1】【2】とは異なり、具体的な数値目標とその達成時期が定量的に表現されていなければなりません。従来の企業の「経営ビジョン」として語られているものにおいて、最も弱いのが、この「目標」の部分です。なお、企業の目標は以下の4つの切り口で考えると明確化しやすくなります。

図3:視野の高いビジョンを有する企業が伸びる(2/2)
◆革新の成功は経営者の姿から

リーダーシップ発揮の前提としての経営ビジョンが策定されても、これが従業員に浸透しなければ、何の効力も発揮しません。経営者はビジョンを作成するだけでなく、自らそれを従業員や関係者に伝道し、実践する姿を見せ続ける必要があります。経営者だから当然リーダーなのではなく、リーダーとしての行動を行うからこそリーダーとして認められる経営者であるのだと考え方を転換しなければなりません。そしてその姿を従業員に見せながら、従業員に革新の必要性を説き続ける活動が必要とされます。

このための手法としては「MBWA(Management by Wandering Around)=職場を徘徊するマネジメント法」というコミュニケーション手法が最適です。社長室にこもっているのではなく、従業員が仕事をしている現場にあらゆる機会を見つけておもむき、問題を発見し、語りかけ、変革への行動を鼓舞していくという現場主義の手法です。有名なところではアメリカのGE(ゼネラル・エレクトロニクス)のジャック・ウェルチがこの手法を採っていました。国内ではホンダの創業者の本田宗一郎が代表格でしょう。

企業を革新するのだといくら経営者が高いところから演説し、社内に標語などを掲げてみても、「本気で社長はそう思っているのか。今までの仕事の進め方を本当に変えてしまって良いのか」など現場は半信半疑である場合がほとんどです。また、従業員にとって今までの業務の遂行方法や目標の立て方などを新しいものに変えていくことは、例えそれが理性的には正しいことであると判っていても、大変な心理的な抵抗感を感じるものです。この連載で度々指摘しているように、経営者自らが、常に身近で革新の必要性を訴えかけ、革新に向けた従業員の活動を評価することが、そのような心理的障壁を取り除くカギになり、成果を生み出していきます。

次回からは、革新を実現するための商品開発の観点と具体的な開発手法を2回にわたって検討していきます。