【連載】企業革新戦略−上昇志向の企業革新−

■第9回:商品を革新する(1)−製造業における製品の革新−

◆はじめに

今回から2回にわたって商品の革新をテーマに考えていきます。まず今回は製造業における製品の革新についてです。製造業において企業革新を実現し、自社を上昇気流に乗せる上で最もオーソドックスかつ効果の高い戦略が、差別的優位性を有する自社製品の開発です。下請企業が多い製造業においては、市場競争力のある自社製品を保有することは、下請からの脱却を図るためにも有効な手段です。新製品を分類すると表1のようになりますが、今回はこの中でも企業を革新へ導く「まったく新しい製品」について考えていきます。

表1:新製品の分類と内容
分類内容
まったく新しい製品革新的で、完全に新しい市場を創造する製品
顧客のそれまでの行動様式を変えてしまうような製品
新製品ラインある企業にとっては新規だが、市場にとっては既存の製品
その企業にとっては確立された市場への新規参入になる
既存製品ラインへの追加既存の製品ラインを拡張する製品
既存製品の改良性能や価値が向上した、もしくは既存製品を置き換える製品
リポジショニング新しい顧客セグメントをターゲットとした、もしくは新しい使用法・用途にポジショニングされた製品
コスト低減同様のベネフィット(便益)を、より低いコストで提供する製品
◆製品開発能力は製造業の最大の強み
図1:実際の新製品の分布は?

製造業を営む中小企業が製品開発を考える際に、よく陥る過ちが「顧客ニーズに対応する」という言葉の取り違えです。皆さんは顧客ニーズに対応した製品とはどのようなものだと考えているでしょうか。親しく取引させていただいているお客様から「この機械のこの部分が使いにくいので直して欲しい」、あるいは「この製品の処理能力をもう少し上げてもらいたい」などの要望に対応したモノを作ることがニーズに対応した製品開発だと思っていないでしょうか。これらは単なる改良品あるいは特注品でしかありません。確かにそのお客様は喜んでくださるでしょうが、その特注品は他のお客様にそのまま売れるでしょうか?あくまでもそのお客様用の個別の要望に対応したものでしかありませんから、2度と同じ内容のものを作ることは無いでしょう。

製品とは、あるタイプのお客様に広く採用していただける、市場性のある標準仕様のものでなければなりません。お客様ごとに仕様が変わり、製造原価も生産工程もその度ごとに変化するような種類のものは製品とは呼ばないのです。「顧客ニーズ」という言葉があまりに口当たりが良いせいか、「お客様が言っている通りのことを実現すること」のような解釈がされているケースを多く見かけます。よく考えてみてください。そのような特定のお客様の要望に全て応えていこうと最も密着した関係を作り上げたのが、下請という企業のあり方だったはずです。差別的優位性を持ち、競争力のある自社製品を開発するということは、あらゆるお客様と対等の関係を構築するための本当の武器を持つということです。

◆企業向けの場合は顧客のプロセス・ニーズに注目

製造業における製品開発では、企業向けの製品であればお客様自身が既に認識している個別のニーズ(例えば加工速度をもう少し向上したい、操作性を良くしたい等)に焦点を当てるのではなく、多くのお客様で業務遂行上のボトルネックになっている、あるいは製造工程上どうしても解決しなければならない問題でありながら、根本的な解決策が見つからないまま放置されているというような、業務プロセス上のニーズに焦点を当てていくべきです。このようなプロセス・ニーズに対応した製品は、その効果が認められると継続的に採用され続けます。ただし、既にそのニーズを解消する他の製品があり、同様の機能の改善・改良による後発の製品では採用される可能性は低くなります。

◆消費者向けの場合は提供価値と知覚価値で差別化する

一方、消費者向けの製品の場合には、その製品によってお客様が何を得られるかという点を重視してください。消費者向けの製品であるならば、必ず何らかの機能を持っています。その機能によってお客様が獲得するものは何かを本質的なところまで考えましょう。例えば携帯電話であるならば、持っている機能は電話としての音声通信機能、メールなどによるテキスト通信機能、最近ではインターネット接続機能、あるいはデジタル画像の撮影機能などがあります。このような個別の機能は技術開発の高速化もあり3ヶ月程度で陳腐化してしまいます。中小企業が製品開発を考えるときに、このような技術革新やモデルチェンジが激しいものを対象とすると概ね失敗に終わります。むしろ携帯電話ならば「人とあらゆる状況で情報交換を行うことが出来る」という本質的な価値に着目し、他にその価値を提供できるものは考えられないか検討すべきです。本質的な部分に着目しないと、製品の細かなスペックの改良にとどまってしまいます。

消費者向けの新製品を提供する場合に注意したいもう一つの観点が、五感に訴える製品か否かです。実際にその製品を見て聞いて触って、あるいは実際に使ってみて、驚きや感動を与えられるものでなければ、カタログ上でのスペックがいくら良くとも従来品や競合品から自社の製品には乗り換えてくれません。使いやすい、見やすい、あるいは手に持って好ましい重さであるなど、人間の知覚を刺激する価値を持つものがベストセラーになる傾向があります。

◆新しいカテゴリーの製品を生み出す

製品開発を考えるとき、顧客ニーズに関してのアンケート調査などを行うケースも多いと思います。しかし、注意しなければならないのは、お客様は既に存在している製品に関してしか評価できないという点です。例えばソニーのウォークマンやフジフィルムの使い捨てカメラ、日清のカップヌードルなど、そのカテゴリーの代名詞のような製品は、お客様側からの視点では決して思いつきません。いずれの製品もお客様の業務プロセスや日常の行動、ライフスタイルなどをメーカーの視点で観察して生まれてきたものです。つまり、本当の顧客ニーズは(それを解決する製品がまだ存在しないため)顧客自身では上手く表明できないということです。お客様の業務や生活を実際に観察・検討し、お客様自身が表明できない潜在的なニーズを解決する手段を、自社の技術やアイディアによって製品という形で提供する「正しいプロダクト・アウト」が製造業の真の製品開発です。実際、ある調査会社の調査によると、10年以上の長期にわたって市場シェアトップを続ける製品のうち53%が、そのカテゴリーで最初に市場に出たものとされています。

製造業における製品にあたるものが、小売業や卸売業における商品、サービス業におけるサービスメニューになります。次回は、革新を考える上で商品やサービスはどのような観点で構成すべきか、どのように提供していくことが望ましいかを検討します。