■失敗しない「プロジェクトチーム」のつくり方・運営の仕方

◆はじめに

プロジェクトチームというと大企業の専売特許のように思われがちですが、中小企業などにおいても新事業進出や新製品開発、新規販路開拓など、経営の革新を行う際には組織される例が多くなっています。
しかしながら、このプロジェクトチームを敢えて発足させながら、有効に機能しない、自然消滅してしまう、あるいはプロジェクトチームそのものが企業の革新を阻害する要因になってしまうといったケースが多くみられます。
通常、プロジェクトチームは経営者自身の発案により組成される場合が多く、チームのメンバーも各部門の優秀な人材で形成されています。それなのになぜ効果を挙げられないのでしょうか。

◆プロジェクト推進のステップ化とチームメンバーの構成

プロジェクトチームが有効に機能しない最も大きな原因が、プロジェクトの推進イメージが具体化・明確化されていないため、最適な部門や人材がプロジェクトチームに配置されていないことにあります。
通常それがどのようなプロジェクトであっても、基本方針の立案、実現可能性の調査・分析、全体戦略ならびに全体スケジュールの構築、部門別あるいは個別テーマ別の戦略検討・調整、実行と管理というように幾つかのステップに大別されます。そして、それぞれのステップにおいて最適な成果を実現できるスキルは異なります。つまり成果を生み出せるチーム組成が異なるのです。
しかしながら、多くの企業のプロジェクトチームは、ただ闇雲に若手で将来有望とされる人材を各部門から招集し、初期ステップから最終ステップまで実行させようとするため、かえって混乱を引き起こしてしまうのです。
プロジェクトチームのメンバーが、すべてのステップで同一である必然性などまったくありません。むしろプロジェクトチームのメンバー構成は固定化せず、ステップごとに求められるスキルを有する人材によって柔軟に編成すべきです。
どのようなタイプのプロジェクトであろうとも、その推進ステップは次の4つに分解されます。それぞれのステップにおいてどのようなチーム編成が最適かを考えて行きましょう。

表1:プロジェクトチームの発展過程
 目的チーム構成
Step1 現状認識外部・内部環境分析による
プロジェクトの必要性に関する
認識強化
企画・調査に長けたスタッフ3名〜5名
タスクフォース型組織
Step2 アウトライン策定対象事業、推進方針の
アウトラインの決定
スタッフ部門+ライン部門5名〜10名
シニア・マネージャークラス
ファンクショナル組織
Step3 明確化と具体化プロジェクト内容の明確化と
具体的推進体制の決定
ライン部門担当者中心
各部門マネージャークラス全員
全社プロジェクト化
Step4 実行と定着プロジェクトの各部門での
実行と進捗管理
全社員が対象
プロジェクトチームを中心とした
統制された組織

【Step1. プロジェクト推進のための現状認識の徹底ステップ】
どのようなタイプのプロジェクトであっても、経営が直面しているマクロ・ミクロの外部環境の分析と、自社の経営状況ならびに経営資源の状況などの内部環境に関する分析が必要不可欠です。
チームには経営者の下でプロジェクトを統括し、意思決定の権限も保有するチームリーダーが必要とされます。このリーダーは取締役あるいは事業部長クラスのボードメンバーであることが求められます。経営者自らが兼務することも可能です。
チームは、企画・調査に長けたスタッフ部門中心とする3名から5名程度の人員数でのタスクフォース型が望ましい形態です(タスクフォース型のチームとは特定の課題解決を実行するための短期かつ小規模のチームのこと)。
このステップでの目的が経営者ならびに担当役員などのプロジェクトの必要性に関する認識を強化することであるため、実務的な能力よりも分析能力が強く求められるためです。

【Step2. プロジェクト推進方針などのアウトラインの策定ステップ】
現状認識ステップで明らかになった情報を基に、プロジェクトの推進方針を決定していく段階です。この段階では既にプロジェクトの主たる対象となる部門が明確化されています。
当初のスタッフ部門のスペシャリストに加え、対象となる事業部門、ならびにその事業をサポートする機能を有する部門でのライン業務の担当者を参加させ、チームの規模を拡大させていきます。新たに加わるメンバーの役職クラスは基本的には中堅から若手クラス、つまりシニア・マネージャクラスの優秀な人材が中心になります。人数的には企画・調査段階から参加していたスタッフ部門の担当者とほぼ同数程度が適当です。
プロジェクトを統括するチームリーダーに関してはステップごとの変更はありません。なお、このステップにおいては、チームリーダーにはチームの統括・運営という業務以外に、他の事業部門を統括する役員あるいは部門長などからの協力を引き出す責任が発生します。
このステップではプロジェクトは通常、定期的なミーティングによって進行していきます。ミーティングには必ずチームメンバー全員が参加し、定期的かつ短期間に集中して行います。また、ミーティングの開催にあたっては、当日決定すべき事項を事前に明確化し、メンバー全員に周知させ、必ずミーティングごとに決定にまで至る必要があります。

【Step3. 対象とするプロジェクト内容の明確化と具体的推進策の策定ステップ】
プロジェクトがこのステップに到達したならば、プロジェクトチームはその構成を大きく転換させる必要が生じます。
スタッフ部門ならびにライン部門の中堅社員中心で全体のアウトラインまでは策定できますが、これを実際の指揮命令系統に乗せ、実行していくためには、実際にそのプロジェクト内容を業務として実行する部門の全面的な協力が必要となるためです。
このため、当初のプロジェクトチームの構成員はプロジェクトの支援にその役割を転換し、プロジェクトの対象部門におけるマネージャークラス全員、ならびに人事・総務、調達・購買、物流あるいは研究開発などのスタッフ部門からの選抜者による、プロジェクト実行のための新たなチームの編成が必要になります。
ライン部門のプロジェクトへの協力を取り付けるためにも、経営者がこのプロジェクトは全社的に緊急かつ重要な課題であることを担当者ならびにその部門長に強く表明し、プロジェクト推進に邁進するよう指示を行わなければなりません。また、人事的な処遇、委譲される権限範囲などについて改めて公式にコミットメントするとともに、その事実を社内に明示する必要があります。

【Step4. 全社的実行・定着ステップ】
実行ならびに組織への定着のステップでは、プロジェクトチームが策定した具体的推進策に基づき、プロジェクトの対象となる部門の社員のみならず、全社員がそれぞれの職務範囲において参画します。
各部門において実行されたプロジェクト推進活動の状況は、プロジェクトチームにその情報が集約され、予定と実績の評価などが行われます。また、プロジェクトリーダーには全社的な進行状況を把握・評価し、経営者ならびに役員会などに常時報告していく業務が発生します。
プロジェクトを実施する部門においては、課・班などの比較的少人数のグループに部門内を分割した上で、各グループがプロジェクトに関し達成すべき業務上の目標とその達成時期について責任を持たせることが重要です。

◆プロジェクトの進行状況を評価するシステムを準備する

チーム構成以外で最もプロジェクトを失敗させてしまう問題として、プロジェクトの進捗を管理・評価する仕組みが十分に検討されていない点が挙げられます。
とくに中小企業などにおいては、人的資源の少なさから、チームメンバー、実施部門の社員ともに、従来からの職務を行いながらプロジェクトを推進することとなり、プロジェクトのみに専念することが困難です。
このため、プロジェクトについての達成目標が曖昧かつ長期的なものである場合、従来の職務を優先し、プロジェクトに関わる業務の優先順位が低くなってしまいがちです。
このような状況を避けるためにも次の観点からプロジェクトチームに対する評価・管理体系を整えるべきです。

【Point1. プロジェクトに従事するメンバーの評価体制を整備する】
従来からの業務については、その部門長が業績評価を行います。しかしプロジェクトに従事する場合、どれほど有能な人材であっても従来業務での生産性は必ず低下します。つまり、プロジェクトに参画することがメンバーの人事評価を下げてしまう危険があり、メンバーのプロジェクトに対するモチベーションが低下するという本末転倒な事態が往々にして発生します。これは絶対に避けなければなりません。
この観点から、プロジェクトに関わる業務に関する人事評価については、チームリーダーが別途行う複線系での人事評価体制を整える必要があります。つまりメンバーは、2つの系統の上司によってそれぞれの業務に関して評価を受ける体制です。
従来業務での部門長は、メンバーの業務量の調整を行ない、かつ部門全体の生産性が低下しないように他の社員への適正な業務配分を行なわなければなりません。また、人事部門においては従来の評価制度とは別個に、メンバーを評価するための制度設計が必要となります。
そして、最も注意しなければならない点は、この新たな複線系での評価制度を、経営者が公に全社員に対してコミットメントし、メンバーが安心してプロジェクトに従事できる体制を整えるということです。

【Point2. 成果のみならず活動そのものを評価する】
評価体制を複線化する際には、評価基準も新たに設定する必要が生じます。
通常、プロジェクトが短期的に大きな成果を生むことは困難であり、何らかの経営上の業績効果が発生するまでには、ある程度の期間が必要となります。このため一般的な実績評価を中心とした人事評価の仕組みでは、いつまでたってもメンバーの業務に対する評価が正しく行われない事態となります。
これを避けるためにも、プロジェクトチームについては各ステップを進行していくためにとるべき活動内容やプロジェクトへの従事姿勢など、プロジェクトの各進捗プロセスでの活動に関する評価基準をとくに設け、活動そのものに対する評価も行うようにするべきです。

【Point3. ステップを細分化し短期での到達目標を明確化する】
活動への評価を人事評価に加えるとともに、各ステップをさらに細かなサブステップに分解し、それぞれのサブステップにて達成しなければならない達成目標を設定する必要があります。
これは1つには長期にわたるプロジェクトにおいては、最終的な経営業績への波及効果が現れるまでには時間がかかるため、短期的な評価基準を準備しなければ人事面評価が難しいという面、さらにそれ以上に重要な面として、常に何らかの短期的な成果を設定し達成することで、プロジェクト自体が確実に進捗しているのだという実感をチームにもたせモチベーションを維持する効果にあります。
また、短期的な到達目標を明確化することで、当初予定に対する進捗実績のチェック、想定外のリスクが発生した場合の軌道修正も容易になります。各サブステップは四半期未満の単位で設定すべきでしょう。

◆経営トップが行なうべきことは何か

「経営者自らがプロジェクトを推進することが成功のカギである」とよく言われます。これは確かに正しいのですが、実際には、経営者が特定のプロジェクトのみにその時間を割くことは困難です。ではどうすべきなのでしょうか。
次のような点についてプロジェクトチームと全社員に関して示し続け、プロジェクトの正当性と重要性を常に意識付けることで、直接プロジェクトに参画するに等しい効果を発揮できます。

【Point1. 経営者でなければ打ち出せない高い目標を具体的に示す】
企業の将来ビジョンを示し、現状からの脱却を図るような高い目標を経営者自身が示すことです。優秀な人材を結集したプロジェクトチームといえども、現状とのギャップが大きな達成目標は示せないものです。
高い目標を経営者が示すことにより、改革を実現するプロジェクトチームの必要性が全社員に認識されます。

【Point2. チームに対するコミットメントと意思決定を続ける】
プロジェクト開始時点では、どのような経営者でもコミットメントを誓います。しかし、往々にしてこれが単なる激励に終わり、その後の積極的な関与につながりません。経営者に必要とされるのはプロジェクトに関与し続けることと、チームが打ち出してくるアイディアや方策に対して明快な意思決定をタイムリーに行うことです。
チームへの無責任な全面委託や意思決定の先延ばしは、最も避けるべき姿勢です。

【Point3. 一貫した姿勢でメッセージを社内に示し続ける】
革新的なプロジェクトの場合、従来の業務遂行方法に変更を迫られる部門なども生まれてきます。彼らを納得させ、プロジェクトの成功に向けて協力させるためには、なぜ、このプロジェクトが必要とされるのか、いつまでに達成しなければならないのかを、あらゆる機会を見つけて経営者自らが発信し続けなければなりません。部門長への指示で事足りているなどと考えないことです。
通常の指揮命令系統だけでは、経営者の考えが企業の隅々にまで浸透することは期待できないのです。