【連載】企業革新戦略−上昇志向の企業革新−

■第10回:商品を革新する(2)−小売業・サービス業の商品を考える−

◆はじめに

小売業において製造業での製品にあたるものは何でしょうか?小売業の店頭には商品が数多く並んでいますが、大手量販店などのプライベートブランド商品(自社のオリジナルブランドの商品)以外は全て製造業や農林水産業者など生産側からの仕入品です。売れ筋商品を選別して仕入れて販売するなどのマーチャンダイジング(商品の仕入から販売にいたる計画的活動)も重要ですが、これだけでは製造業における自社製品のような「自社の武器」というには力不足です。

◆小売業では「買い物」という顧客の行動自体が焦点

さて、顧客は皆さんのお店に何を求めていらっしゃるのでしょうか?低価格を求めていらっしゃる顧客もいれば、高品質を求めていらっしゃる顧客もいるでしょう。あるいは買い物という行為そのものを効率的に行いたいと考えている顧客もいます。一口に「顧客ニーズ」といってもその内容はさまざまです。一方、皆さんが店頭に陳列されている商品も多種多様です。その時期の流行品を店頭に並べても、3ヶ月もすればトレンドは変化し時期遅れの処分品になってしまいます。また、自分の店が老舗といわれ特定の定番商品が最もよく売れていたとしても、定番だけではいずれはお客様に飽きられてしまいます。つまり、顧客は多様で捉えにくいものであり、商品も季節や流行によって常に変化していきます。ではそのような状況でありながら、贔屓にしてくださるお得意様はどうして皆さんのお店を選択されるのでしょうか?

顧客が皆さんのお店に来店されるときには必ず「あのお店に行けば・・・」という考えが頭に浮かんでいます。あのお店に行けば名物の○○が手に入る、あのお店に行けば何か新しい商品がどこよりも早く手に入る、あるいはあのお店に行けば他所よりも安く買える、あのお店に行けば店主である皆さんからお薦め品を案内してもらえる・・・。顧客はある目的を達成するための具体的な手段として、皆さんのお店を選択しているのです。つまり、顧客は「特定の商品」を買うために来店するというよりも、ある目的を達成できる場・空間として「特定のお店」を選択した上で来店されているのだと考えてみるべきです。現在では特定商品を購入するだけならば、電話での予約やネット通販など直接来店しなくとも入手することが可能です。それをあえて来店するのは、お店という場・空間とそこで行われる消費行為に意味を求めている、つまり「意味のある買い物」という行為を実現するために足を運んでいるのです。「モノそのもの」だけを消費しようとしているのではなく、そのお店で買い物をするという行為が持つ意味を得るために来店しているのです。

ではこの「意味のある買い物」という顧客の消費活動と企業の革新と連携させるためには、一体何が必要となるのでしょうか?そのためには、顧客がある特定の買い物の目的を頭に思い浮かべたとき真っ先に自店が浮かんでくるようにする、つまり「○○という目的=あのお店なら達成可能」という公式が顧客の購買行動に定着することが重要となります。皆さん自身が買い物をなさるときを考えてみてください。店構えや内装、屋号、立地、ブランド、品揃えの内容、個別の具体的商品、値段、接客態度などお店全体のイメージが頭に思い浮かぶかと思います。つまり、そのお店が持っているトータルな個性が評価の対象となり、その店に対する好感度やロイヤリティ(忠誠心)も個々の商品ではなくこのトータルな個性に対して働いているのに気づくはずです。

顧客ニーズに対応した品揃え、顧客満足を高める接客、他店にはない特別な商品などの個別の要素も確かに大事ですが、それよりもむしろ「お店の個性=ショップ・アイデンティティ」とでもいうべきものの方がはるかに重要であることがここからもわかると思います。つまり、自店がターゲットとする顧客層に対して自店という空間を提供しながら、「意味のある消費」という行為をいかに楽しく快適に体験してもらうかが、店そのものへのロイヤリティを醸成することになります。ご贔屓さんは決して特定の商品についているのではなく、必ずお店そのものについているものです。
ではそのようなショップ・アイデンティティを確立するためには、何を重視して革新を図っていけばよいのでしょうか。

◆小売業・サービス業では従業員そのものが重要

小売業やサービス業では必ず顧客に直接対応する担当者が存在します。顧客はこの商品提供・サービス提供の最前線に立つ従業員を通じて、企業そのものを判断していきます。つまり、彼ら個々の従業員が会社そのものを文字通り代表しているのです。また店頭に立つ以外の部分においても、本部でマーチャンダイジング(商品計画)を計画・実行するのもサービスメニューを開発するのも全て自社の従業員です。小売業・サービス業では、設備投資の巧拙やビジネスモデルの巧拙よりも、人材採用・育成の巧拙が企業の発展を規定してしまうといっても過言ではありません。
このような人材の中でも、特に顧客と接する従業員は、企業の代表として表1のような役割を顧客の面前でその場その場の状況に対応しながら担っていきます。

表1:接客担当の従業員に求められる役割
役割内容
【カウンセラー】顧客のニーズを、接客過程を通じて具体化・明確化する
【コンサルタント】ニーズの解決を自社の商品・サービスによって実現化する
【プロデューサー】買い物という行為の喜びやサービス提供のプロセスを演出する
【アクター】販売やサービス提供の実行によってショップ・アイデンティティを表現する

このような複数の役割を演じなければならない従業員に対して企業は、彼らの活動を積極的に支援するためのITなどを活用した合理化の仕組みづくりや、仕事への使命感や感動を維持するための組織文化の計画的な醸成、現場への積極的な権限委譲や登用、人事評価に対する透明性と公平性などを通じて、モチベーションの向上を常に図っていく必要があります。顧客に対してのマーケティング活動の前に、自社の従業員に対しての内部的な活動をまず充実することから始めるべきです。

次回は革新を効率的に行うための、アウトソーシングや共同研究などの外部の経営資源を有効に活用する手法を検討します。