■中小企業の営業強化策

◆はじめに

中小企業の経営者の方とお話をしていて最も多くご相談を受けるのが「自社の営業力をなんとか強化できないか」というものです。今回この「営業力の強化」という点に焦点を当てていきたいと思います。

◆あなたの会社の営業力はなぜ弱いのか
図1:中小企業のマーケティング活動実態

まず図1を見てください。これは中小企業がどのような営業活動を行っているかについて中小企業庁が調査したものです。すぐに気づくのが、大多数の中小企業の営業活動の内容が既存顧客向けのものに偏り、新規顧客の獲得に向けての活動が大きく不足しているという点です。元来、中小企業の多くは特定の顧客との継続的な取引によって事業基盤を確保しています(その最たるものがいわゆる下請企業です)。このこと自体は決して間違った経営判断ではないと言えるでしょう。しかし仮にそうであっても、新規顧客獲得のための活動としては定石ともいえる見込み客への飛び込み訪問を3分の2の企業が行っておらず、ダイレクトメールに至っては事業所・企業向けの事業を行っている企業ではほとんど行われていない、つまり大多数の中小企業においての営業活動とは特定の顧客へのルートセールスのみであり、新規開拓活動は限りなくゼロに近いというのが現状のようです。さて、皆さんの会社の営業活動はどうでしょうか。

このような、顔の見える相手だけを対象とするような営業活動しか行っていないということは、非常にハイリスクな経営状況であるといわざるを得ません。営業部隊の活動が既存顧客に対するルートセールス中心であるということは、一部の特定の顧客による売上に企業が依存してしまっているということを示しています。仮にそのような顧客との取引が何らかの原因でなくなってしまった場合、会社全体の売上に対する影響は甚大なものとなります。実際、統計的にはどのような企業であっても、毎年15%から20%の顧客が何らかの原因により取引関係を解消しています。仮に毎年20%の顧客が取引を解消していくとすると、3年後には顧客数は半減してしまう計算になります。 また、特定顧客とあまりにも密接になりすぎた結果、自社の事業基盤が特定顧客からの発注次第になってしまい、売上確保のために無理な条件での取引(強烈なコストダウン要請や短納期化、保守メンテナンスに関する無料化要請など)を泣く泣く飲まざるを得なくなるケースなども多々見受けられます。

このようなリスクがあるにもかかわらず、なぜ大多数の中小企業でこのような営業活動の実態となってしまうのでしょうか。それは大多数の企業において、営業部門に課せられる目標が売上高という「今日の糧」中心だからです。営業担当者は月次や四半期ごとの成果目標を課せられ、この必達が義務付けられています。この成果目標が売上高であるならば、売上達成のために最も効率的な活動に終始するのは仕方ないことです。よく「新規開拓は既存客深耕の5倍の(時間的・費用的)コストがかかる」といわれます。目の前にある目標が売上高であるならば、それを達成するためには既存顧客に対してアプローチするのが合理的です。企業が営業部門に対して課す目標が、製品や商品・サービスの販売による目標売上高の達成であるかぎり、営業部門の活動は既存顧客に対して集中していきます。そして、少しずつ減り続ける顧客数を気にしながらも、特定の顧客に対して必要以上の販売攻勢をかけてしまい、結果として顧客の不興を買いお得意様を減らしてしまうという負のスパイラルに落ち込んでしまいます。あなたの会社の営業力が弱いのは(営業部門にも当然問題はあると思いますが)、経営目標の立案を行う経営者あるいは経営幹部の考え方そのものに問題があるケースも多いのです。

もちろん、企業が事業を営んでいくためには売上とそれに基づく利益の確保が重要です。しかし、それだけでは企業を継続させていくための「明日の糧」は見出すことはできません。明日の糧、つまり新たなお得意様を育てていくという活動が必要不可欠なのです。また、新規顧客はすぐにお得意様になるわけではありません。それなりの時間が必要とされます。この点からも、自社の営業活動の目標を販売=セリングという活動のみにせず、市場開発=マーケティング=顧客の獲得と維持という活動を自社の営業のもう一つの基軸であると位置づけ、継続的かつ計画的に行っていく必要があります。

◆新規開拓活動の3つのポイント
図2:セリングとマーケティング

顧客の獲得つまり新規開拓が企業として必要とされていることに異論はないと思います。しかしながら、多くの企業で新規開拓がうまく進まないと感じていることもまた事実でしょう。なぜでしょうか。それは、こと新規開拓に関しては、どういうわけか多くの企業で各営業担当者任せになってしまっているからです。

営業担当者の活動は、売上目標達成に向けたものがどうしても主体となります。新規開拓の必要性は確かに感じていますが、あくまでも時間が余った時に「ついで」に行う、気になる見込み客の近くに来たので「ついで」に訪問してみるなど、その場その場での思いつきによって行われているのがほとんどです。ついでに行っているものでしかありませんから、他の業務で多忙になると新規開拓活動は後回しになってしまいます。そしてせっかく構築しかかっていた見込み客との関係も消失してしまい、顧客化に失敗するのです。

企業の戦略として新規顧客の獲得を目指すならば、当然企業として活動をコントロールしていく必要があります。ここではこの活動への考え方を「誰に」「何を」「どのように」という3つのポイントに分けて検討していきます。

【第1ポイント:誰を対象として新規開拓をするのか】

通常の営業活動である販売(セリング)では、自社の製品やサービスをどのように顧客に購入あるいは採用してもらうかが焦点となります。つまり、自社のある製品を購入してくれそうなのはどのような顧客か、顧客の興味を引くためにはどのようなアプローチが求められるかなど、自社の製品やサービスという「モノ」を起点として営業活動を検討していくことになります。一方、新規開拓においては自社の将来のお得意様を開拓していくという活動ですから、自社を現在高く評価している既存の優良顧客に似たタイプが最も有望なターゲットとなります。ここから、自社の優良顧客という「ヒト(含む法人)」が活動検討の起点となります。このターゲットのプロフィールをしっかりと押さえて分析することが、効率的な新規開拓活動の原点です。

優良顧客の検討は、売上高と利益率の両面から行います。特に大手企業との取引を行っている場合、その売上の大きさから「この大手企業が優良顧客」と判断しがちです。しかし実際には取引条件が非常に厳しく、利益面での貢献度合が小さいケースが散見されます。皆さんの企業を本当に評価してくださっている顧客ならば、適正な利益を認めてくれているはずです。自社の商品や技術・ノウハウなどを高く評価し、継続的に取引を行ってくれている顧客層を見つけてください。企業や事業所向けの事業の場合は、次の観点で分析を行ない、自社が得意とする顧客タイプを明確化します。

消費者向けの事業においては、顧客のプロフィールデータとこれまでの購買履歴を基に顧客タイプを次のような観点で整理し明確化します。

店頭での販売が中心の場合、個別顧客のプロフィールの把握はなかなか困難です。ポイントカードなどを導入することで顧客情報を得ようとする企業も多いですが、実態を表しているとは言いがたい面もあります。このような業態の場合は正確なデータ収集にこだわるよりも、実際に店頭での接客を通じて顧客を観察し、上記の特性に当てはめて整理することで十分でしょう。

このようにして明確化した優良顧客に類似した見込み客を自社の営業展開エリア内で具体的にリストアップしていくことで、新規開拓活動のための準備の最初のステップが完了します。このような検討方法はある程度多数の顧客との取引実績があり、かつ顧客情報や購買履歴が明確になっている場合に有効です。しかしながら大多数の下請企業や創業まもない企業の場合、顧客数が極端に少ないあるいは特定顧客以外への販売実績がほとんどないというのが現実でしょう。そのような場合はどうやって新規開拓のターゲット見込み客を見つけていけばよいのでしょうか。

このような場合には、自社が提供している製品や商品・サービスが、既存顧客においてどのように使われているかという「用途」を中心に考えていきます。企業向けの事業であれば、自社が提供した製品やサービスが顧客企業の業務プロセス上のどのような部分でどんな使われ方をしているかを調査し、似たような業務プロセスを有すると思われる業種・業態、事業規模、地域について仮説を立てていきます。販売実績がほとんどない場合は、どのような業務プロセスに適合するように製品やサービスを企画したかを基に、やはり仮説を立てていきます。そしてこの仮説に基づいて自社の営業展開地域内における見込み客をリストアップします。

一方消費者向けの場合は、自社の提供している商品やサービスがどのようなタイプの消費者にどう使われることを想定して企画したかを考え、先に示した4種類の特性に当てはめて大まかな顧客タイプを検討し、想定される顧客像に近いと思われる職種・地域・年齢層などによる見込み客候補の名簿を作成していきます。この際の名簿はあまり絞り込まず、かなり大まかな基準に基づいたもので構いません。
なおいずれの場合も、見込み客リストは営業担当者にそれぞれ作らせ管理させるのではなく、組織として作成し一元管理ができるようにしておいてください。多くの企業で見込み客リストを作ったらすぐにそれを各営業担当者に分けてしまい、あとは各担当者の管理に委ねてしまう傾向があります。これでは新規開拓の成果判断などが困難になりますので注意してください。

【第2ポイント:何を使って新規開拓をするのか】
図3:営業活動の4つの段階

見込み客リストを作り、これに基づき新規開拓活動を行っているにもかかわらず一向に成果が上がらないという企業も多いと思います。このような企業の場合、新規開拓の目的をそもそも履き違えている場合が大多数です。図3を見てください。新規開拓は明日の糧である顧客数の「量的な拡大」が主眼です。ところが多くの企業では、顧客数だけでなく、売上高の拡大という取引の量的拡大や、利益率の高い商談の実現という取引の質的拡大まで一度に目指そうとします。このため、新規開拓に向かない高額商品を新規開拓用の商材として選んだり、提案型営業と称して商談プロセスが複雑な商材を選んでしまいます。

新規顧客との初回の取引だけでは、まだ相互の信頼関係は構築されません。このような段階で高額商品を薦めることは時期尚早です。まず新規顧客との関係を強化する(つまり自社を信用してもらう)過程を経てから行うべきです。また、提案営業に関しても自社の技術力やノウハウなどに関し、顧客から十分な信頼を受けてからでなければ実現しません。新規開拓の目的は、将来のお得意様の候補となるような新規の顧客を、できるだけ数多く獲得することが目的です。この新規顧客の内の、例えば1割が大口取引を行ってくれるような優良顧客に育っていけばよいのです。

また、新規開拓は換言してしまえば確率論です。どれだけ多くの見込み客に対して自社と自社の製品やサービスを紹介できるか、そして興味を持ってくれた見込み客とどれだけ効率的に商談をクロージング(契約)できるか、次の候補となる見込み客にどれだけ効率的にアプローチできるかという点が重要です。10人に会うよりも100人に、100人に会うよりも1000人に会う方が新規顧客獲得の可能性は高くなります。
これらの観点から、新規開拓に向く商材は次のような3つの特性を持つものになります。

  1. 商材の特性が明確であるもの(聞けば、あるいは見れば即理解できる)
  2. 製品仕様や取引条件に関して複雑な商談を必要としないもの
  3. その販売において業界における営業経験の長さが必要とされないもの(新人でもベテランでも、あるいは営業担当者以外でも説明できる)

この条件から考えると、企業向けの事業の場合は、顧客別にカスタマイズを必要としない標準仕様製品もしくは新製品であり、価格的には高額ではないもの(低価格である必要は必ずしもなく、業界における標準的な価格であれば問題ない)が新規開拓に向いた商材ということになります。また、消費者向けであるならば新商品や季節限定品など商品特性について顧客が理解しやすいもので、価格的にあまり高額でないものが対象となるでしょう。

次に検討しなければならないのは、どのように効率的かつ効果的に商談を進めていくかという点です。これに関しては「FABE」という手法を使って、商材のセールスポイントとセールストークをまとめたものを事前に準備すると良いでしょう。FABEとはセールスポイントを【1.Feature(特徴)】、【2.Advantage(利点)】、【3.Benefit(利益)】、【4.Evidence(証拠)】の4段階に分けて説明しながら、顧客に提供していくという手法です。この手法の利点は、新人・ベテランを問わず誰でも同じように顧客へ納得性のあるセールストークを展開できること、商材のセールスポイントが明確化されるので短時間かつ効率的に説明可能なこと、ダイレクトメールや電話での説明など限られたスペースや時間で説明を行う際にも有効であることなどがあげられます。

表1:FABE
【1.特徴(Feature)】:その商品やサービスの性能や品質、素材などの客観的な事実
その商材に関する客観的な事実。数値などで表され、箇条書きに網羅できるものです。顧客にとってはカタログを読めば済むようなことです。せっかく面談の機会を頂いた見込み客にこれを長々と説明し続けると、商談が打ち切られてしまいます。できるだけ簡潔に事実のみを伝えられるようにまとめておきましょう。
【2.利点(Advantage)】:その商品やサービスが持つ一般的な優位性
特徴という事実から、簡便さや使いやすさ、汎用性あるいは専門性、安全性や顧客満足度などの一般的な利点がどう発生するかの説明です。金銭的あるいは経済的な優位性は含みません。利点の説明についても十分注意を払う必要があります。実際の商談において、利点の説明は話していて楽しいですし見込み客も身を乗り出して聞いてくれるかもしれません。特に商談の初期の段階では非常にインパクトがあります。ただし、利点までで商談を区切ってしまうと見込み客は次のように言います。
「なるほど説明はよくわかりました」「・・・しかし、当社(私)には当てはまりませんね」「・・・当社(私)で必要となるのはかなり先のことでしょう」
利点は一般的な優位性でしかありません。この段階で見込み客からこのような発言が出てしまうと、その商談はその時点で打ち切りですし、復活の見込みもありません。できない営業マンが陥る典型的なパターンです。
【3.利益(Benefit)】:その商品が見込み客に具体的に与える金銭的・経済的な優位性
その商材を相手が採用することによって相手が得られる具体的な利益です。例えば他社製品と比較して費用対効果が勝っている、経費やコストが安い、省エネ・省力が実現できる、人手がかからない、などがこれにあたります。この段階まで言及できて初めて商談として成り立ち始めます。新規開拓においては個別の見込み客ごとの利益はなかなか事前に話法の準備ができませんから、事業所向けであれば業種・業界や事業規模別に、消費者向けであればライフステージやライフスタイル別にいくつかのパターンを想定しておくと良いでしょう。
【4.証拠(Evidence)】:特徴・利点・利益を保証する具体的な採用事例など
利点、利益の説明の根拠となるような事実をできるだけ集め、商材に対する信頼性を増し、採用に踏み切らせるためのものです。大手企業や同業者での採用実例や、公的試験機関でのテスト結果、新聞や業界誌での紹介記事など、第三者による評価が受けられたものが有効です。

訪問時の面談やプレゼンテーションの場合は、「特徴→利点→利益→証拠」という説明の流れになります。一方、ダイレクトメールやテレフォンセールスのように時間やスペースが限定される場合は「利益→証拠→特徴→利点」という流れで構成し、できるだけ最初に興味を引くように考えてみるとよいでしょう。

【第3ポイント:どのように新規開拓を進めるか】

新規開拓活動の運営において最も重要なのは、営業担当者の個々の裁量に任せてしまわないということです。どのような企業においても、営業担当者は既存顧客との商談を中心とした売上確保の活動を最優先させています。新規開拓は必要と思っていても、その優先順位は低いです。新規開拓活動においては、商材・スケジュール・活動目標を明確化した上で、営業部門の管理者もしくは経営者自らがリーダーシップを取って、全営業担当者にいっせいにローラー作戦でやらせるべきです。また、新規開拓活動は思いついたときに行うのではなく、年間スケジュールを計画して定期的・継続的に行っていきましょう。繰り返しになりますが、新規開拓は「働きかけた見込み客数×成約率」という確率論です。できるかぎり多くの見込み客に働きかけ続けることが成功への近道です。

また、新規開拓活動を定着させるためには、この点での評価基準を作っておく必要があります。新規顧客の獲得件数に対する評価が、売上高に対する評価よりも低く設定されている場合には、やはり担当者は動きません。必ずこの点についての評価を公正かつ透明性を持って行わなければなりません。

◆営業活動自体をアウトソーシングする手もある

下請け型のメーカーにおいては、営業部門自体が事実上存在しない、あるいは存在しても新規開拓などでは機能しないというものも多いと思います。このような場合、発想を転換して営業活動自体を外部に委託してしまうということも選択肢に入れてはどうでしょうか。ここ数年、わが国においても「セールスレップ」といわれる職業あるいはそれを専門とする企業が生まれてきつつあります。セールスレップとは、メーカーに代わってメーカーの製品の販売を代行する独立自営の営業専門家のことです。

彼らは商品在庫を持たず、特定のテリトリー内でメーカーに代わって営業活動を行い、成果に応じた販売手数料を得るという業態です。メーカーにとってのメリットは、それぞれの地域に特化した人脈を持った彼らを使うことにより新たな地域への進出が経費(事務所開設費用や固定人件費、出張旅費など)を最小化して可能であること、特定の業界に人脈を持つレップの場合は自社で行うよりも効率的に新規業界の開拓が可能であることなどが挙げられます。また多くの場合、彼らは直接ユーザーを開拓するよりも、一種の流通代理店的な立場で製品を扱ってくれる小売店を開拓していきます。メーカーにとっては自社ではなかなか構築できない流通チャネルの構築を代行してやってもらえるわけです。

ただし留意しなければならない点として、彼らの多くが個人事業主であるため信用力に限界があることや、期待したほどの成果が上がらない場合もあること、自社の社員ほどコントロールできないことなどがあります。どのような内容で商談を進めてもらいたいかについては、担当地域ならびに具体的な商品名、契約期間、手数料率と支払条件、機密保持の範囲、競合商品の取り扱いの可否など、かなり詳細に販売委託契約書などの書面で定める必要があります。また、彼らに対して積極的にサポートを行うことが彼らの営業効率を向上させますので、FABEでまとめた内容や見込み客リストなども提供していくべきです。わが国ではまだまだ定着していない業態ですが、優秀な営業担当者を一から育てる手間とコストを考えれば、その活用は検討に値するものです。