【連載】企業革新戦略−上昇志向の企業革新−

■第12回:環境変化にチャンスを読み取る

◆はじめに

企業経営を取り巻くさまざまな環境が大きく変化しています。経営環境の変化は従来型ビジネスにとっては脅威となるケースも多いでしょう。しかし一方では、変化が起きる時に他社に先駆けて革新へと取り組むことによって、大きな飛躍を生み出せる千載一遇のチャンスでもあります。この連載の第1回でも環境変化について若干述べましたが、最終回である今回、あらためて変化を読み取るためのポイントを詳述していきます。
企業を取り巻く経営環境には、社会や経済など産業全体を取り囲むマクロ環境と、自社の日常的な事業活動に直結するミクロ環境の2種類があります。

◆PEST分析でマクロ環境の変化を読み取る

マクロ環境に関して考えるときには4つの切り口でその変化を注視していく必要があります。4つの切り口とは【1.政治的環境要因(Politics)】、【2.経済的環境要因(Economic)】、【3.社会的環境要因(Social)】、【4.技術的環境要因(Technology)】であり、この頭文字をとって「PEST分析」と呼ばれています。

表1:PEST分析
役割内容
政治的環境要因
(Politics)
租税環境の変化、持株会社関連規制などの企業経営全般に対する法制度変化、特定事業規正法など特定業界・業種に限定される法令の変化、国内外からの圧力による規制緩和やセーフガード発令など
経済的環境要因
(Economic)
マクロ経済の変化。GDP年間成長率の経年変化や公定歩合推移、地価動向など全業種に影響を与えるものと、消費者物価指数、民間設備投資動向、人口動態変化など業界ごとに特に重要な要因の双方に注意
社会的環境要因
(Social)
人口構成の変化、ライフスタイルの変化や流行、環境指向などの社会ムーブメントなど、その業種・業界に関連が深い社会的なトレンド傾向や状況を検討
技術的環境要因
(Technology)
ITの進展や新たな基盤技術の開発、生産管理技術や販売管理面での技術的な進展など、業種・業界全体に影響を与えると思われる技術面での革新状況を検討(新製品や代替品のようなミクロの変化ではない)

【1.政治的環境要因】
政策や法律、条令など政治的な要因によって発効・発令されるものによる環境の変化です。政治的な環境変化の留意点として、発生が非連続的であるという点があります。他の3つのマクロ環境変化は通常、時間の経過に従って少しずつ変化していくものです。しかし、政治的側面での変化は必ず「200X年X月から施行」というように変化がおきる期限が定められます。それ以前の政治的環境に基づいたビジネスが、ある日を境に突然成り立たなくなるという特殊性があるわけです。特に多くの規制がある業界などに関しては、その変化に十分注意しておく必要があります。

【2.経済的環境要因】
マクロ経済の変化です。マクロ経済の変化に関しては、多くの経営者がマスコミ報道などを通じて十分理解していると思いがちです。確かに大雑把な傾向に関しては理解されていますが、それを実際に定量的に把握しているかというと大いに疑問です。経済的環境要因に関しては必ず数値で押さえておく必要があります。変化が誰の目にも明らかになってしまった時点(つまりマスコミなどが大きく報道する時点)では、すでに他社が変化への取り組みを完了させています。変化の最初の兆しは小さなものです。この兆しを見落とさないためにも、必ず自社の事業に関連性の高い経済指標類は数値で押さえてください。
また、国内だけにとどまらず、海外の動向にも注意すべきです。特に昨今の中国を中心とするアジア各国の動向のように、生産や物流などの経済環境の根幹の部分に変化が起きている場合は、風評や古い情報などに惑わされず、冷静に統計資料などから変化を読み取っていかなければ判断を誤ってしまいます。

【3.社会的環境要因】
今後のわが国の社会的環境を考える場合、人口構成の変化によって発生するであろう様々な変化は検討すべきです。わが国はかつてどのような先進国でも起きなかったような急激な高齢化社会に突入しつつあります。特に、団塊の世代と呼ばれる昭和22年から24年生まれの世代が今後5年のうちに定年を迎えます。新たな価値観の出現、収入と貯蓄へのスタンス変化、消費行動の要因変化、社会活動のあり方の変容、労働生産性の変化など、ほぼ全ての業界において大きな影響が避けられないと考えられます。

【4.技術的環境要因】
特に技術的な基盤が海外からもたらされるような業界の場合、海外での技術動向の変化などを学会発表や学会誌、あるいは親密な関係にある研究者などから収集するように努めてください。小売業やサービス業においても、店舗オペレーションや物流管理へのITの活用(例としてはICタグ)などには十分注意を払う必要があります。

◆ミクロ環境の変化は業界構造を決定する5つの力で検討する

ミクロ環境とは業界構造と言い換えられます。業界構造の変化については、業界の動きを規定する次の5つの力で検討してみましょう。

表2:5つの力のチェックポイント
買い手
(ユ−ザ−)
買い手の値下げ要求や、品質や性能、サービスに対する要求度合はどの程度のものであるか□ 買い手が集中していて、かつ大量購入するか
□ 買い手にとって購入する製品・サービスは不可欠か
□ その製品・サービスは買い手の総コストや総購入代金に占める割合が高いか
□ 買い手のスイッチングコストは高いか
売り手
(サプライヤー)
売り手は値上げや低品質化などによって交渉力を行使する。買い手の圧力が強い場合に売り手の交渉力は脅威化□ 売り手が少数の有力企業による寡占状態か
□ 売り手の業界は買い手の業界よりも集約的か
□ 売り手にとって買い手の業界は重要か
□ 買い手にとってサプライ品は重要な仕入品か
□ 売り手のスイッチングに要するコストは高いか
新規参入業者参入障壁がどれぐらいあるか、参入業者に対して既存業者がどれぐらいの反撃を起こすと予想されるか□ 業界内に規模の経済性は働いているか
□ 既存企業の製品は差別化されているか
□ 買い手のスイッチングコストは高いか
□ 流通チャネルの確保が必要か
□ 参入に関して何らかの政府の規制があるか
新製品・代替品現在の商品よりも優れた代替品の出現は、長期的には最大の脅威と考える□ 代替品は、ある製品に対して価格対性能で良くなりそうか
□ 代替品は、好業績を上げている業界によって生産されるものか
業界内の
競合他社
大手企業の戦略の方向性と、同規模の競合他社について検討を加える□ 同業者が多いか、同規模の競合が多いか
□ 業界の成長は速いか、遅いか
□ 買い手のスイッチングコストは高いか
□ 競争業者の戦略は多様か

図1:ミクロ環境を決定する「5つの力」

【1.買い手(ユーザー)の力による変化】
ユーザーは常に変化します。この変化には敏感になってください。ユーザーのプロフィール、購買決定要因、価格や品質への反応などに変化が現れたときには、従来とは異なる取り組みが必要になります。顧客情報の充実や取引履歴の分析などを怠らないようにしましょう。

【2.売り手(サプライヤー)の力による変化】
サプライヤーの変化は価格や品質の決定的な変化要因になります。原材料や部材の品質、価格、納期などはもちろん、原産地の状況やサプライヤー業界の寡占度などは全て、業界構造に多大な影響を与えます。購買担当者に任せきりにしないよう気をつけましょう。

【3.新規参入業者の力による変化】
強力な新規参入業者が現れたときは、業界の構造が大きく変わってしまいます。技術的優位性や新たなビジネスモデルを持った参入業者が現れた場合、既存業者にとっては大きな脅威となります。特に資本力を持つ大手の参入可能性には注意しましょう。

【4.新製品・代替品の力による変化】
圧倒的な技術優位や価格優位を実現した新製品や代替品の出現は、長期的には最大の脅威となります。常日頃から情報収集を怠らないようにしてください。また、自社が新製品や代替品を市場投入する場合は、既存事業者の反撃度合なども検討してみましょう。

【5.業界内の競合他社の力による変化】
競合に関しては、業界全体の動きを決定する業界大手企業の戦略的な動向と、自社の営業地域における具体的な個別の競争業者の動向とを併せて検討します。特に大手の戦略転換は業界そのものを大きく変化させます。常日頃から情報収集と分析を心がけましょう。

この連載では1年間にわたって様々な視点から企業革新を考えてきました。皆様の企業経営・企業革新に少しでもお役に立ったならば幸いです。ご愛読有難うございました。