【連載】営業強化戦略−勝ち続ける企業への変革−

■第1回:企業の営業力を強化する−販売からマーケティングへの転換−

◆「売れない時代」とはユーザが変化した時代

よく耳にする言葉として「売れない時代」というものがあります。その多くは、小売業での売上不振や製造業での出荷量の低下などを説明するため、消費者の収入減少や経済のマイナス成長などを挙げ、「売れない時代だから売れないのだ」という文脈で使われています。さて、従来の店舗形態で売れない、従来のような製品が売れない、従来の販売方法で売れないことで最も困るのはどこでしょうか。それは、売れない時代以前に勝ちパターンを作り、そのパターンを推し進めることでシェアを拡大し、市場を占有してきた業界大手企業です。そして、そのような大手企業が作った枠組みの中で事業を行う、例えば下請加工業者や大手流通向けの販売などは甚大な影響を受けることになります。

それでは全ての企業、全ての商品・サービスが売れなかったのでしょうか。デパートやスーパーマーケットは苦戦していますが、コンビニエンスストアは伸びてきました。冷蔵庫などの白物家電は売れなくなっていても、DVDプレーヤーやデジカメなどのいわゆるデジタル家電は売れています。消費支出が低下した、設備投資が減少したといってもゼロになったわけではありません。「売れない」というのは従来のモノや従来の流通チャネルではユーザが「それは買わない、そこでは買わない」ということ、つまりユーザの購買基準や購買行動が変化したということです。

◆変化の時代の競争力の源泉は機動性
図1:変革の時代こそチャンス!

大手企業が強いのは、均質化したユーザニーズを満足させるような商品やサービスを、圧倒的な生産設備や流通網を使って低コストで供給するからです。このことは一方では、細分化された細かなユーザニーズへの対応や、設備等が安定的に高稼働できないような変化の速いビジネスでは必ずしも強みが発揮できないということでもあります。そして現状は、景気低迷や人口構成変化に伴う社会的価値観の変化、規制緩和・撤廃による参入障壁の変化、インターネットなどの活用による新たなマーケティング手法の登場、国内だけに取引先を限定しない市場のボーダレス(無国境)化、従来は市場としては成り立たなかったような細分化された新たなマーケットの誕生、大手による大規模設備投資が間に合わないような技術革新スピードの高速化などが起こっている変化の時代です。

このような環境で競争優位の源泉となるのは、事業規模の大小ではなく、環境変化に対する迅速な分析・判断に基づく行動という機動性です。そして中小企業が大手企業に勝るのは、この機動性に他なりません。今こそ、大手企業が作った枠組みの中から飛び出し、変化するユーザニーズをより早く的確にとらえ、顧客に支持される企業として勝ち名乗りを上げるチャンスなのです。

今回から検討していく「営業強化戦略」とは、この「いかに顧客に支持される企業へと機動的に変貌するか」を営業という側面から考えていくことに他なりません。

◆販売というアクション中心からマーケティングという戦略への視野の拡大
図2:販売とマーケティングの違い

企業活動を円滑に行っていくためには、自社の商品やサービスを顧客に提供し対価を得るという活動が必要不可欠です。このため企業が「営業」を検討する場合、どうしても売上高の確保とそれを実現するための営業部門の「販売活動」という側面のみとらえがちになります。

しかしこのとらえ方では、既存の商品および顧客層という現状での事業の枠組みの中での発想に終始してしまいます。事業環境や顧客層に大きな変化のない安定成長期であれば、このような観点で良かったかもしれませんが、現状はかつてないほどの変化の時代であり、中小企業の機動性を活かす千載一遇のチャンスでもあります。そしてチャンスをつかむためには、これからの自社の顧客とは何か、その顧客から対価を得るためにはどのような取り組みを行うのかという、マーケティングの観点が必要となります。

マーケティングとは、「自社が顧客に与え得る価値を、自社の商品・サービスという具体的なモノを通じて提供することで、自社の発展の基盤となるような継続的かつ良好な取引を行ってくれる顧客を、いかに企業として獲得し維持させていくか、計画的に行う活動」です。発想の起点は顧客であり、目標は顧客との共存共栄(つまりWin-Winの関係)です。

販売とマーケティングの違いを5W1Hで簡単にまとめたものが図2になります。

表1:販売とマーケティングの違い
【WHY(目的)】

販売活動の目的は目標売上高の確保です。一方マーケティングは自社の将来の発展の基盤となるような顧客の獲得と維持・深耕が目的となります。

【WHO(部門)】

販売は営業部門が通常行います。マーケティングでは顧客化ならびに関係構築が目的ですので社内の全部門による対応が必要となります。

【WHAT(売り物)】

販売は既存製品・サービスを使って行います。マーケティングでは顧客のパートナーとなることを目指しますから、既存の商品・サービスではなく、顧客に自社がどのようなメリットあるいは価値が提供できるかがカギとなります。

【WHEN(期間)】

販売の目標設定は通常、最大で決算期ごととなります。一方マーケティングでは継続的な成長と発展が最終的な目標ですので、短期的な成果を積み上げながら中長期の目標へと前進するという考え方になります。

【WHERE(地域)】

販売活動は営業部門が展開しているエリアを中心で考えがちです。しかし営業部門のみにとらわれないマーケティングではエリアという概念は不要です。

【HOW(方法)】

販売ではどのようなアクションをとるかを中心に考えます。マーケティングでは顧客の変化の把握、つまり市場分析が重要な前提条件となります。また、中長期目標の達成のために企業として適切に活動しているかどうかという、マーケティング活動に対するマネジメントも重要な要素となります。

営業部門の活動は企業には不可欠なものであり、販売がその中心的な活動であることは事実です。しかし営業活動が販売にのみ終始し、企業の中長期的なマーケティング戦略との整合性を欠くものであるならば、目先の売上目標は達成することはできても「勝ち続ける企業への変革」には貢献しません。


この連載では、営業部門の強化策と担当者に求められる能力について毎回テーマを決めて解説していきます。次回は、既存顧客との関係強化策について解説します。