【連載】営業強化戦略−勝ち続ける企業への変革−

■第4回 企画提案力を強化する(1) ニーズ探索能力の強化

◆はじめに

大型商談や問題解決(ソリューション)型営業を進めていく上での必須のスキルである「企画提案能力」に関して、今月から3回にわたって解説していきます。今回は大型商談や高収益案件を導き出すために必要とされる、顧客ニーズの探索手法について考えます。

◆購買決定の最大の要因は「価値のバランス」
図1:価値のバランス

顧客はなぜモノを買うのでしょうか。顧客はそのモノによって得られる効果によって、自分(あるいは自社)が抱えている何らかの課題解決や、自分の理想あるいは目標を叶えられると考える場合に購買検討に入ります。そして得られる効果、つまり解決される問題の大きさに比較してモノに支払う対価が適正であると納得できる場合に購買決定に動き出します。つまり、「感じている問題の大きさ」が「支払う対価」を上回っている場合に顧客はモノを買うという「価値のバランス」が存在するということです。
これを大型商談やソリューション営業で考えれば、より大きな課題に対して、適正な価格での解決策の提案がなされるならば、それは商談のテーブルに乗るということです。

さて、実際の営業の現場では価値のバランスに関して、売れる営業担当者と売れない(あるいは利益をもたらさない)営業担当者とでは正反対のアプローチをしています。
売れない営業担当者が陥るのが、対価を下げることで商談を成立させようとするアプローチです。これは、自社にとっては値引による粗利益の低下(あるいは赤字商談の発生)、顧客にとっては課題解決に適さない低付加価値商品による購入後の不満足の拡大につながります。
このような「歩くディスカウンター」と呼ばれる営業担当者の特徴は、まず特定の自社商品ありきであり、顧客ニーズを顧客から聞き出さずに自分勝手に解釈、行動面ではとにかく商品説明を一方的にしゃべり続けるという典型的なパターンを持っています。

企画提案能力を高めるということは、価値のバランスの「顧客の課題」側に焦点を当て、顧客に課題の大きさを明確に理解してもらうような企画を立案するところから始まります。つまり、より大きく影響度の高い顧客ニーズをいかに探索していくかということです。
これは具体的には、顧客自身もそこに何らかの課題があることは認識しているが、その課題がどれぐらい重要でかつ緊急に対応しなければならないのかまでは認識していないニーズ(潜在ニーズ)を、重要かつ緊急に対応しなければならない課題であり、対応することで得られる効果がはっきりと認識される状態にまで引き上げていくか(これを「潜在ニーズの顕在化」といいます)という手順を踏むということです。

◆潜在ニーズの顕在化に必要な「質問能力」

優秀な営業担当者の特徴は「聞き上手・質問上手」だということです。これは、顧客に適切な質問を投げかけることによって、顧客自身に自分の抱える課題を整理してもらい、そこに大きなニーズがあることに気づいてもらった上で、そのニーズにマッチした企画提案を行なっているということを示しています。

ではどのように質問を行って潜在ニーズを顕在化させていけばよいのでしょうか。今回はその代表的な手法としてSPIN法というものをご紹介します。これは4段階の質問によって、顧客にニーズの存在を認識してもらい、顧客自身で解決方針を見出してもらうという手法です(4段階の質問のそれぞれの頭文字をとってSPINと略されます)。(図2)

表1:ニーズを引き出し、商談に変えていくための4段階の質問法
状況質問
Situation Questions
顧客が置かれている状況や環境を「5W3H」の形式で聞いていく、事実確認のための質問
問題質問
Problem Questions
状況質問で得た情報を基に、顧客が抱えている不完全な状況や不満を聞き出し、潜在ニーズに気づいてもらうための質問
示唆質問
Implication Questions
顧客が気づいた潜在ニーズがそのまま放置されると、どのような悪影響や問題が発生するかを検討してもらい、解決しなければならないニーズだと認識してもらうための質問
解決質問
Need-payoff Questions
ニーズが解決されたならば、どのような好影響や問題解決が達成されるかを具体的にイメージしてもらい、顧客から解決策の提案を求めさせるための質問

第1の質問:状況質問 −Situation Questions−
顧客が置かれている状況や経営環境などの客観的事実を確認するための質問で、商談の初期に行うことが鉄則です。質問する内容は「いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、何に関して(What)、どのような考えで(Why)、どのようなやりかたで(How)、どれぐらいの量(How many)、どれだけの金額で(How much)」という5W3Hの切り口で簡潔にたずねていきます。当然、十分な事前調査を行い、必要な部分だけを簡潔に確認していくようにしなければなりません。なぜなら、顧客は毎日、いろいろな営業担当者から状況質問を繰り返され、うんざりしているからです。

第2の質問:問題質問 −Problem Questions−
状況質問で得た情報を基に、顧客が抱えている課題を探っていきます。質問は顧客側の立場に立って、何らかの非効率、不足、未達成など「非・不・未(ヒフミ)」な状況はないか仮設を立て、「このような問題があるのではありませんか」と問いかけていきます。目的は潜在ニーズに気づいてもらうことです。問題質問でニーズが出てきても、この段階では顧客は「なんとなく問題がありそうだ(つまり潜在ニーズに気づいた)」状態であり、なにがなんでも解決しなければならないとまでは考えていません。未熟な担当者はこの段階で契約を焦ってしまいますが、まだ価値のバランスは購買決定側に傾いていませんので商談はあまり上手く進みません。

第3の質問:示唆質問 −Implication Questions−
発見された潜在ニーズがどのような影響を及ぼしているかを明確化してもらうための質問です。標準的な質問パターンは「○○が問題だとおっしゃいましたが、そのことが△△に影響を与えませんか?」というものです。例えば不良発生率が高いことが問題であるなら、そのことが製品原価に影響する、価格に影響する、売上に影響するなど、より具体的な影響を検討してもらうことで「課題解決の緊急度」を認識してもらいます。この示唆質問は顧客の経営方針や担当者が置かれている状況、経営課題の優先順位などを十分理解した上で、事前にシナリオを考えて商談に臨まなければなりません。アドリブは効かないと考えてください。示唆する切り口は「時間」「労力」「経費」「責任・立場」「他者・他部門・他社」に関する「ヒフミ」です。

第4の質問:解決質問 −Need-payoff Questions−
示唆質問で浮き彫りになった課題が解決されたらどうなるか、「○○が解決されると、△△への影響はどうなるでしょう?」と示唆質問の内容を逆にたどる質問を行います。これは潜在ニーズをはっきりと顕在化してもらうための質問です。
ここでの注意は「顧客自身がニーズに気づいた」と考えてもらうために、あくまで質問で通さなければならないということです。うっかり「当社の□□なら○○の問題を解決できます」というように解答を入れてしまうと「売り込まれたニーズだ」と顧客側は感じてしまい、商談が破綻してしまいます。担当者はここは我慢して、「次回、当社としてどのような問題解決のお手伝いができるか、ご提案させていただきます」と言って座を辞してください。


さて、顧客のニーズは探索できました。次回は自社商品をどのように提案していけばよいかについて解説します。