【連載】営業強化戦略−勝ち続ける企業への変革−

■第7回 交渉力を強化する

◆はじめに

営業活動の現場において、商談を最終的な妥結に導くための交渉は避けて通れないものです。今回はこの「交渉」について考えていきます。

◆交渉の場を左右する3つの要素
図1:交渉を左右する3つの要素

素晴らしい企画提案を行ったにも関わらず、最終的な交渉で商談が上手くいかなくなったという経験はないでしょうか。このような事態はなぜ発生するのでしょうか。それは企画提案においては提案内容に基づく理性的な判断が重視されるのに対して、交渉においては相手を納得させるという人間対人間(あるいは組織対組織)の合意、いわゆる「落としどころ」が重視されるためです。このため、交渉においては企画提案とは異なり、人間の生身の部分に配慮をしなければなりません。

交渉の現場で交渉相手の意思決定を左右する要素としては、次の3つのものがあります。営業担当者はこれらの要素に関し、事前準備や十分な配慮を怠ってはいけません。

【第1の要素:感情】
良くも悪くも人間は感情に左右される生き物です。交渉相手の感情面への配慮を欠いた交渉態度では、どうしても上手く運びません。自社が求める成果を重視するあまり、相手から何度も譲歩を引き出そうとする、あるいは相手が過去に行った経営や投資の判断、意思決定などを否定するようなことが続くと、交渉相手はそれが合理的ではないことが分かっていながらも「相手の得は自分の損」という感情に囚われてしまいます。

このような事態に陥らないためには、交渉相手を「常に尊重する」という心構えをもって交渉にあたることが求められます。また、そのためには、相手の性格や略歴などの人間的なバックボーンをよく知る努力を怠らないことが求められます。

【第2の要素:論理】
企画提案においては内容の論理的整合性が求められます。一方、交渉の場において求められる論理はこれとは若干異なります。交渉では「相手側が持っている論理」に内容が適合しているかどうかが重視されるのです。

経験の少ない営業担当者が交渉の場で失敗するパターンとして、客観的な基準や社会的常識、相手が享受可能と想定しているメリット(つまり自分側の論理)にこだわりすぎて、交渉相手の論理(特に相手側の企業文化や風土に基づく意思決定ルール)への配慮を欠いてしまうというものがあります。

こうなってしまうと、相手は営業担当者を交渉するに値しないと判断してしまいます。交渉妥結に至るために必要な論理とは、交渉相手の側から見て妥当であると判断されるようなものである必要があります。

【第3の要素:利害】
交渉が最終的に妥結に至るのは、双方にとって納得できる具体的な利害がある場合です。交渉を上手く進めるためには、相手が欲している利害はどのようなものであるかを把握する必要があります。ここでいう利害は何も金額だけではありません。スピードかもしれませんし、継続的取引による安定した資材調達であるかもしれません。自社の求める利害にばかり視点が行っていると、相手の求める利害を軽視してしまう傾向があります。

◆交渉戦略の4つの類型
図2:交渉戦略の4類型

次に交渉を進める上で考えておきたいのが、双方の交渉結果に対する期待内容についてです。ビジネス上での交渉は、必ずしも取引成果の最大化を目的とするものばかりではありません。特に有望顧客との交渉においては目先の成果を求めるのではなく、長期的な関係構築が目的となる場合も多いはずです。

図2は成果を横軸に、相互関係を縦軸にして、どのような交渉戦略を採るべきかを示したマトリクスです。交渉をスムーズに進める上で重要なのは、交渉の相手方がその交渉についてどのように考えているかを理解し、彼らの考え方に沿う方向で商談を構成していくことです。

【協調戦略(バランス重視型交渉)】
双方がお互いにその交渉に求めている成果を理解しあいながら、良好な関係を築こうと努めている場合の戦略です。この場合、営業担当者側が商品・サービスを通じて提供する価値が、相手方にとって継続的に大きな価値を持ち続けるものである必要があります。また、個々の交渉で求める成果(利害)については、長期的な視点に立った関係継続が重視されるため、バランスの取れたものにとどめておく必要もあります。

【譲歩戦略(関係重視型交渉)】
こちら側の意図が有望顧客との関係確立にある場合、成果に関してはある程度譲歩していく必要があります。ただしこの戦略を採る場合、相手方がその交渉に求めているのが次に述べる競合戦略であると、自社側が一方的にデメリットを被ることとなります。自社だけでなく相手方も、今後の取引継続を期待しているかどうか見極めなければなりません。

【競合戦略(取引重視型交渉)】
今後の取引継続に大きな利点が見出せない場合、交渉成果を徹底して追及する交渉となります。営業担当者としては、いかに相手方からの値引要請やサービスの無償化などを回避するかが焦点となります。非常にタフな交渉内容となるケースです。

【現状維持戦略(暗黙の了解型交渉)】
その交渉自体に重要性が双方とも見出せないような場合、今までどおりのやり方でいく、あるいは「あうんの呼吸」で進めるというように、交渉へのエネルギー投下を避け、スピードを重視する交渉パターンとなります。

なお、このような交渉の類型は、必ずしも交渉対象となっている案件内容によって決定されるものとは限りません。交渉に当たる人間の双方の性格的(つまり感情的)な面により決定される場合も多く見受けられますので注意が必要です。


次回からは、営業部門が上げる成果と営業担当者育成に責任を有する、営業管理職が強化すべき能力について3回にわたって解説していきます。