■今こそ商売の原点「御用聞き」営業を見直そう!

◆はじめに

「新しい葡萄酒は新しい皮袋に入れよ」――西村健一氏が信奉する聖書のなかの言葉である。今、古くて新しい営業スタイルが「御用聞き」。長年、中小企業に対する経営戦略、事業転換戦略を指導してきた立場から、今後の営業の基本は「御用聞き」に尽きると断言する。サザエさんに登場する酒屋の御用聞きこそ、営業マンのお手本だ。

◆「売れない時代」の起死回生策となるか

鈴木敏文さん(株式会社セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO)は、「今日、私は完全に商売は『御用聞きの時代』になったと考えている。インターネットでも通信販売でも消費者の自宅に入り込んで商売をするのだから、ネット時代こそ御用聞きの考えが大切になる」と、あちこちで「御用聞き」という言葉をさかんに発信されている。これまでの流通業では、お客様の捉え方というのが「消費者」という捉え方だった。消費者というのは、家計の何パーセントを何に使ってくれるかという算式に基づくもの。その消費者が、全体の中に何割いるかという統計的なものの考え方が主流で、少なくともお客様一人ひとりの顔が見えている状態ではなかった。

今では、お客様の価値観も多様化してきており、特に上層の可処分所得を持っている年齢層が、以前に比べると上の年代のほうに変わってきた。この層は消費者ではなく、いわゆる「プロの生活者」。ものを買ってもらうには、相当きめ細かく見ていかないと攻略できない。単にヒット商品を並べてポンと売るというのではなく、生活者一人ひとりのニーズやライフスタイル、生活信条などをしっかりと把握し、かなり深いところまで顧客理解をしておく必要がある。つまり、個々の顧客のことを詳しく知っていなければならない。

生活者というのは、自分の生活をどう組み立てていくかということを基本にして消費をする。したがって、生活者の日常を知らないと販売機会を喪失してしまう。そうなってくると、いかに生活者に選んでいただくかということになるわけで、生活者に合わせた品揃え、販売活動をやらなければ競争に勝てない。 そのためには、1件1件の個人情報をしっかり捉えておくことだ。では、どうやって情報を知り得るのかといえば、これはもうお客様のところに足繁く通うしかない。各々の生活……例えば、そのお宅ではイベントがこういう年間スケジュールで組まれている、この時期になると東京へ行っていた息子さんが帰ってくるとか、そうした一歩敷居の向こう側、玄関の向こう側まで入っていかないと得られないような情報が必要となる。

◆サザエさん家に出入りする三河屋に学べ!

だから、これからは「サザエさん」に出てくる三河屋さんが復活する時代。サザエさん一家がお得意先の酒屋さんだが、酒、酢、油などはみんなこの店に配達してもらっている。店員のサブちゃんが、いちいち御用聞きに来てくれるという親切さが“売り”。サザエさんのお宅は、親世代から孫世代まで一緒に住んでいるから大所帯を計算して油や酢がそろそろ切れたころだろうと、時を見計らってやって来る。あるいは、近所に住む甥っ子の雑誌記者ノリスケさんが、イクラちゃんを連れて遊びに来るらしいとの情報を得れば、ノリスケさんはビールが好きだからビール1ケースとイクラちゃん用のお菓子なんかも用意しておこう、となる。料理は、日頃は煮物中心だけど、こういうときは揚げ物が出るから、サラダ油を持って行こうか、とまで考える。もの凄いマーケティング力があったのである。蛇足だが、この三河屋のモデルになった酒屋がほんとうに東京の桜新町にあって、今では「セブン‐イレブン サザエさん通り店三河屋」となっているそうだ。

◆統計データではお客様の心を読めなくなった

さらに、これからは「超高齢社会」という形になっていく。もちろん、このことによって人々の消費行動も大きく変わると思う。従来は、大きなスーパーマーケットやパワーセンターにクルマで買いに行くというスタイル。一家の分をまとめて1週間分買いにいく、という買い物の仕方だった。ところが、これから高齢化ということで、毎日お宅にいるというケースになると、お買い物の提案をしていかないと、すぐに飽きられてしまう。

もう1つ、今は「団塊の世代」の消費行動がどう変わるかというテーマで流通業界もかまびすしいが、あと10年も経てば団塊の世代も60代後半。活動は活発かというと、やはり若いときみたいに歩き回るということはなくなってくるだろうし、その年齢になってクルマで動くというのはどうだろうか。結局、日常の買回り品に関しては、より身近なところで消費をするようになると思う。ひょっとすると、そのことだけでシャッターがまた開いたりして、商店街が生き返ってしまうのではないかと想像をたくましくしている。

そうなると、自分をわかってくれている人が御用聞きに来てくれる、ニーズを聞きに来てくれるというのは、非常にいい営業活動になると考えられる。地域に生活者が戻ってくるという感覚を持っている。

そこで商店や小売業に携わる人たちは、どういうふうに商売の仕方を変えていけばいいのかというと、繰り返すようだが、お客様をよく知らなければ変え方がわかってこない。フェイス・ツー・フェイスでのヒューマンタッチな情報収集というのが、不可欠になってくる。それには、昔ながらの御用聞きしかない。いつも腰に大福帳を付けて、顧客情報をずっと書き綴っていくというような手作りのデータベースこそが貴重な情報源になる。

長い間、流通の現場というのはPOS(販売時点管理システム)、あるいはデータマイニングという形式で、一人ひとりの顧客を判別するのはなく、塊として見てきた。データに基づいた売れ筋商品を、店頭にできるだけ数多く置いておく。これで今までやって来たわけだが、売れ筋というのはあくまでも最大公約数でしかない。実際、準死筋商品や死筋商品などもある程度は置いて多様性を演出していかないと、買い物自体も楽しくなくなる。

その意味では、こうした営業手法を先駆的に追求してきたセブン‐イレブン創業者の鈴木さんが、御用聞きの時代と言っているのが、実に象徴的な話に思えてならない。

◆御用聞きのつもりが、実は土下座営業

さて、小売業の話から一般の事業会社の御用聞き営業について考えてみよう。法人営業、特に中小メーカーの営業現場では、一時期、プレゼンテーションソフトをフル活用した提案営業、ソリューション営業といった、カッコをつけた営業スタイルが流行った。しかし、最近は、法人営業でも御用聞き営業が見直されている。というのは、従来は大手企業の下請け関係に入れば、とりあえず経営者は安心し仕事も安定した。自分の会社の商談というのは、必ずお客様からの引き合いで始まるものという感覚をずっと持っていた。ところが今は、お客様の引き合いをこちら側から提案できなければ、価格以外では勝負できなくなっている。普通の標準品で安いだけのものを探すだけなら、お客様が自分でインターネットを通じて世界中から調達できてしまう。

そうなってくると、お客様自身がまだはっきりとはわかっていない、自分でそこに何となく不満はあるけれど、まだ表に出てきていないというようなニーズを、こちら側が見つけて、そして提案していくという営業が求められてくる。一昨年の『中小企業白書』の統計に出ていたようだが「あなたの会社はどんな営業をやっていますか」という質問に対して、「顧客との関係強化・維持」が大体6割ぐらい。ずっと同じ得意先を回って、「注文ください」の世界だったわけだ。しかし、この注文くださいというのは、実は御用聞き営業ではない。これは単に顔つなぎをしているだけに過ぎない。「何か仕事ないですか」という、いわば土下座営業。これでは、企業は伸びない。お客様のニーズを何とかして探し出して潜在的ニーズを明らかにしていかなければならない。潜在的ニーズはどこにあるかというと、必ずお客様の現場にある。あるいはお客様の経営方針や経営戦略の中にある。

このことは、営業先の会社なり工場を訪問し話をして初めてわかること。話の中から、あるいは見たことの中からヒントを探し出して、こういうところが問題ではないですか、と提案する。土下座営業になると、自分の会社の商品や製品、技術といった、まず自分のところありきで、それを売り込むだけになっている。これでは、押し売りに近い。

だからこそ「御用聞きに徹しろ」と言っているのだが、御用聞きというのは、お客様が困っていることが、まずスタートライン。だから、ビジネスコーディネーターのような役割も必要。お客様の問題を自社だけで全部解決などということは、なかなかあり得ないと思ったほうがいい。

◆「話す」営業より「聞く」営業

私は、御用聞き営業のアドバイスとして「しゃべる営業ではなく聞く営業をしろ」と言っている。最初はまず一生懸命に「聞く」。これだけでも、ある程度情報は入ってくるはずだが、もう一歩欲しい、ということであれば、次は「聴く」。それで、お客様の要望や不満をよく聴いて、さらには解決策を示し提案するために、「訊く」。質問をして相手にしゃべってもらうのだが、人間とは不思議なもので言われたことは忘れても、自分がしゃべったことは忘れないもの。このプロセスを経なければ御用聞き営業は完結しない。

ということは、本当の御用聞きになるためには、聞くだけでも3段階必要。つまり、1度の訪問だけで済むはずがない。定期的に、あるいは1つの商談が始まれば、10回20回と足繁く通い、ベターではなくベストの提案やソリューションを提供することが、必要になってくる。このことは、企業の規模の大小にまったく関係ない。

こういう形で、本当にしっかりとした解決策や提案ができれば、それ以降は、その営業マンが行って「来るな」と言われることは100パーセントなくなるはずだ。先方の購買担当者や工場長、設計部長、開発部長には喜んでもらえる。しかも、定期的に顔を出していれば、離反していくようなことも少なくなっていく。「認知不協和」というのだが、お客様は納入された後も本当にこれでよかったのかと不安に思うことが多々ある。やはり出向いてアフターフォローをしっかりする。「お前が来るのを待っていたよ」と、言ってもらえるようになれば、これこそが本当の御用聞きだ。