■新規事業に乗り出す際にやりたいこれだけの準備

◆はじめに

当たり前のことですが、新規事業は今まで取組んできた本業とは多くの点で異なります。この違いをよく分からないまま、十分な事前準備を行わずに参入すると、思わぬ大やけどを負ってしまうものです。
新規事業に乗り出す際に事前に準備しておかなければならない作業を、新規事業の可否判断のための調査と、実施体制という2つのポイントに分けて解説します。

◆事前準備ポイント1 事業の魅力を調査する

新規事業に乗り出すからには、その事業が魅力的でなければ意味がありません。新規事業を検討する場合には、まずその事業の魅力を調査する必要があります。調査のポイントは、市場に関する数値的な把握と業界知識の獲得、そして市場ニーズの確認になります。

【市場について定量的に把握する】

事業の魅力度をはかる上での観点は、1. 市場規模、2. 市場の成長性、3. 市場の収益性 の3つになります。

1. 市場規模
市場規模については業界団体が発表している出荷統計や生産統計、シンクタンクなどの市場予測レポートなどを参考に、今後3年から5年程度の予想市場規模を調査する必要があります。
魅力あるかどうかについては、3年後の国内市場規模が最低でも300億円以上予想されるかどうかをベースラインとされると良いでしょう。

2. 市場の成長性
新規事業は基本的には成長が予測される業界に進出することが原則です。年率5%以上の成長が見込まれれば、十分に魅力的な市場です。市場規模推計と同様、シンクタンクのレポートなどを参考にされると良いでしょう。

3. 市場の収益性
多くの新規事業が失敗する原因のひとつに、初期の収益性が維持される前提で投資等を行ってしまう点にあります。成長市場では競争の激化から、市場価格が急激に低落することで収益性が低下するケースがよく見受けられます。参入しようとする業界での過去の販売価格変化などを調査し、収益性予測を現実的な数値に近づけておく必要があります。

【業界知識を獲得する】

業界知識については、1. 業界の商慣習、2. 業界に関する法的規制の動向、3. 主要企業の動向 がポイントです。

1. 業界の商慣習
業界特有の商慣習には十分留意すべきです。業界の商慣習に従う、商慣習にあえて挑戦する、いずれの戦略を採る場合でも、商慣習に関して間違いなく把握していなければ有効な手立ては打てません。

2. 業界に関する法規制
業界を規制する法律や条令などに関しての理解は不可欠です。また、新規参入業者にとって大きなチャンスが訪れるのは、法的規制の緩和や強化によって業界の再編成が行われる時です。

3. 主要企業の動向
 業界を牽引する主要企業はどこなのか、どのような商品構成で、どのような営業戦略をとっているのかなど、大手5社程度については十分研究しておくことが求められます。

【市場ニーズを確認する】

消費財ならば年齢や性別、職業、ライフスタイル、所得水準、購買頻度、地域などの複数の基準で市場をセグメント(分割)し、自社のターゲットとなる顧客層を明確化した上で、ニーズに関して仮説を立てて調査と検証を行います。

生産財の場合は業種・業態という大枠だけではなく、事業規模や展開地域別にセグメントしてニーズ調査を行わなければ、本当のニーズは発見できません。

いずれの場合でも、統計や調査レポートなどだけに頼った机上の空論では本当の市場ニーズは発見できません。アンケート集計などだけではなく、実際に面接調査やグループインタビュー、試作品の提供などを行い、本当の市場ニーズを発見するように努めてください。その際には、自社があらかじめ考えたニーズに関する仮説にとらわれすぎないよう注意が必要です。

また、実際に市場に投入した場合に、事前のニーズ調査から予想された購買行動をターゲットが起こさないケースも多く見受けられます。これは、特に先行する類似商品が市場にない場合などにおいて、調査対象者のニーズ評価が機能や品質に偏り、経済性(価格やランニングコストなど)については評価の埒外に置かれてしまう傾向があるためです。「あればいいな」という評価は「自分(自社)がお金を出して購入する」ということではありません。十分注意してください。

◆事前準備ポイント2 実行体制を整備する

新規事業を実際に推進していく体制を整備する際には、プロジェクトチームの編成という組織面での準備と同時に、評価体系の整備という制度面にも気を配る必要があります。

【プロジェクトチーム編成の要点】

新規事業の推進準備は大きく3つのステップに分解されます。それぞれのステップでプロジェクトチームに求められる内容は変化しますので、最適かつ柔軟な人材配置を心がけてください。

1. 調査・検討ステップ
このステップにおいては、プロジェクトを統括し意思決定の権限も保有するは取締役あるいは事業部長クラスのボードメンバーをリーダーとし、企画・調査能力に長けたスタッフ部門中心とする3名から5名程度の人員数でのタスクフォース型が望ましい形態です。タスクフォース型のチームとは、特定の課題解決を実行するための短期かつ小規模のチームのことを指します。このステップでライン部門の実務者を各部門から招集しチーム編成を行なうと、部門ごとの既得権の確保が目的化し混乱のまま失敗する傾向があります。

2. 事業推進のアウトライン策定ステップ
調査・検討ステップで明らかになった情報を基に、事業推進の方針決定を行うステップが次に来ます。当初のスタッフ部門のスペシャリストに加え、新規事業に関連性が高いライン部門の担当者を参加させ、チームの規模を拡大させていきます。新たに加わるメンバーは中堅から若手クラスの優秀な人材が中心になります。人数的には調査・検討ステップから参加していたスタッフ部門の担当者とほぼ同数程度が適当です。このステップではチーム内での人員ならびに役職のバランスがライン側・スタッフ側のどちらかに偏ることは避けるべきです。チームリーダーに関してはステップごとの変更はありません。なお、このステップにおいては、チームリーダーにはチームの統括・運営という業務以外に、他の事業部門を統括する役員あるいは部門長などからの協力を引き出す責任が発生します。

3. 事業目標の明確化と具体的推進策の策定ステップ
このステップに到達したならば、指揮命令系統を備えた企業組織に大きく転換させる必要が生じます。
新規事業に対する全社的な協力体制が必要とされる段階ですので、経営者自ら当該事業の重要性を表明し、実務的人材を徴用していきます。
同時に、後述する人事的な処遇、委譲される権限範囲などについて改めて公式にコミットメントを行い、その事実を社内に明示します。

【評価体系の整備】

取組もうとする新規事業の目標が高ければ高いほど、準備期間は長期化し、具体的成果が出てくるまで時間がかかるようになります。また、特に中小企業などにおいては人材煮制限があるため、チームメンバー、実施部門の社員ともに、新規事業のみに専念することは難しく、従来からの職務を行いながら新規事業の準備を行うこととなります。従来の職務に関してはどの企業においても数値目標などが具体的に明示されていますが、新規事業の準備作業に関しては多くの場合、達成目標が曖昧かつ長期的なものになりがちです。このため、従来の職務を優先し新規事業準備に関わる業務の優先順位が低くなってしまいがちになります。新規事業への取り組みが停滞し、失敗に終わる原因の多くは、このような社内状況にあります。これを避けるためには、以下の観点から新規事業準備に取組むメンバーへの評価・管理体系を整えておくことが重要です。

1. メンバーの評価体制を整備する
従来からの業務についてはその部門長が業績評価を行います。しかし新規事業の準備を兼務する場合、どれほど有能な人材であってもメンバーの従来業務での生産性は低下します。つまり、新規事業に参画することがメンバーの人事評価を下げてしまう危険があり、このことがメンバーの新規事業に対するモチベーションを低下させるという悪循環を引き起こします。これは絶対に避けなければなりません。

新規事業に関わる業務に関する人事評価については、新規事業のチームリーダーが別途行う必要があります。つまり新規事業の立ち上げを兼務するメンバーには、二つの系統の上司によってそれぞれの業務に関して評価を受ける体制が必要です。従来業務での部門長は、メンバーの業務量の調整を行い、かつ部門全体の生産性が低下しないように他の社員への適正な業務配分を必ず行なわなければなりません。また、人事部門においては従来の評価制度とは別個にメンバーを評価するための制度設計が必要となります。

最も注意しなければならない点は、この新たな複線系での評価制度を経営者が全社員に対してコミットメントする必要があるということです。メンバーが安心して新規事業に従事可能な体制を整えてください。

2. 成果のみならず活動そのものを評価する
評価基準も新たに設定する必要が生じます。通常、新規事業の準備期には短期的に大きな成果を生むことは困難であり、業績効果が発生するまでにはある程度の期間が必要となります。このため一般的な実績評価を中心とした人事評価の仕組みでは、いつまでたってもメンバーの業務に対する評価が正しく行われない事態となります。これを避けるためにも、プロジェクトチームについては各ステップを進行していくためにとるべき活動内容やプロジェクトへの従事姿勢など、準備作業の進捗プロセスでの活動に関する評価基準を特に設け、活動そのものに対する評価を行うようにしなければなりません。

3. ステップを細分化し短期での到達目標を明確化する
活動への評価を人事評価に加えるとともに、各ステップをさらに細かいサブステップに分解し、それぞれのサブステップで達成しなければならない達成目標を設定する必要があります。
これは1つには準備期間においては、業績という目に見える成果が現れないため、短期的な評価基準を準備しなければ人事面での評価が難しいという点があります。また、それ以上に重要な面として、常に何らかの短期的な成果を設定し達成することで、新規事業の準備作業自体が確実に進捗しているのだという実感をプロジェクトチームに実感させるという効果もあります。また、短期的な到達目標を明確化することは、当初予定に対する進捗実績のチェック、当初想定外のリスクが発生した場合の軌道修正の容易さなども実現可能となります。

表は、筆者があるクライアントでの新規事業取り組みの際に活用した、サブステップの設定用シートです。ご参考になさってください。

プロジェクト名称 チームメンバー 

No.取組テーマ具体的活動内容担当メンバー達成目標成果物進行スケジュール達成度評価
040506070809101112010203
    目標               
実績              
    目標               
実績              
    目標               
実績              
    目標               
実績              
    目標               
実績              

評価者