中堅・中小企業のための失敗しないプロジェクトチーム運営方法
第3回 プロジェクトチームに適した評価制度の構築

はじめに

事業創造型プロジェクトの場合、到達しようとする目標が高ければ高いほど、準備期間は長期化し、具体的成果が出てくるまで時間がかかるようになります。また、特に中堅・中小企業においては、人材は恒常的に不足しているのが現実です。このため、チームメンバーはもとより、プロジェクトの実行ステップで実際に作業を担当する社員も、プロジェクトでの取り組みのみに専念することは難しく、従来からの職務を行いながらプロジェクトにも従事することとなるのが現実です。

従来の職務に関してはどの企業においても数値目標などが短期的かつ具体的に明示されていますが、事業創造型プロジェクトに関しては多くの場合、達成目標が中長期的であり数値目標に関しても大まかなものになりがちです。

このため従来の職務を優先し、プロジェクトに関わる業務の優先順位が低くなってしまい成果がなかなか上がらない、成果があがらないためにチームメンバーの取り組みに対する社内的な評価が正当になされない、結果としてチーム全体のモチベーション(士気)が低下してしまいプロジェクトが停滞していくという悪循環に陥ってしまいがちです。

事業創造型プロジェクトへの取り組みが停滞し、失敗に終わる原因の多くは、このような目標設定と成果の評価の難しさにあります。これを避けるためには、プロジェクトに取組むメンバーへの評価体系を整備し、評価制度そのものをプロジェクト推進のためのモチベーション向上の仕掛けとする必要があります。

事業創造型プロジェクトに適した評価制度とは

それでは中堅・中小企業で事業創造型プロジェクトに適した評価制度を構築する場合には、どのような注意点が必要となるでしょうか。

わが国の企業に広く採用されている人事評価制度は「職能資格制度」といわれるものです。これは、従業員がもっていると思われる職務遂行能力(つまり、特定のレベルの仕事を遂行可能な職務能力)を「職能要件表」と呼ばれる、多数の従業員に適用できるような客観的かつ抽象的な基準としてまとめ、これに基づく評価で人事面での処遇を決定していくというものです。

この職能資格制度で評価の対象となる能力は「〜することができる(はずである)」という「保有能力」です。例えば、○○大学を卒業しているのだから、1年目でこれぐらいの仕事はできるだろう、あるいは当社で10年以上の経験があるのだから課長の仕事ができるだろうというような会社側の期待と、実際に業務遂行した成果との差を評価していると考えていただければ結構です。

長期的な人材育成を目論む場合にはこのような制度でよいかもしれません。しかし、プロジェクトチームのメンバーに求められているのは、「一定の期間内に、一定上の成果を生み出すプロジェクトを運営する」能力です。つまり、期待される能力をいずれ発揮してもらえばよいのではなく、今すぐに発揮してもらうことが求められています。しかも、中堅・中小企業においては従来からの職務もこなしながら、新たな取り組みでも成果を出さなければなりません。ここから、次のような点に留意しながら、メンバーの評価制度を構築するようにしていく必要があります。

1. プロジェクト専用の評価体制を準備する

従来からの業務についてはその上司が業績評価を行います。しかしプロジェクトチームも兼務する場合、どれほど有能な人材であっても従来業務での生産性は必ず低下してしまいます。つまり、プロジェクトに参画することが、逆にメンバーの人事評価を下げてしまう危険性があるのです。これによって、メンバーのプロジェクトに対するモチベーションが低下するような事態が発生することだけは絶対に避けなければなりません。

プロジェクトチームに参画することによって避けられない従来からの職務における業績評価の低下分を補って余りある、チームでの評価を準備すべきです。つまり、チームメンバーに対する、プロジェクト分のもうひとつの評価が用意されなければなりません。

プロジェクトに関わる業務に関する人事評価については、チームリーダーもしくはサブリーダーが別途行うように制度化します。つまりプロジェクトを兼務するメンバーには、二つの系統の上司によってそれぞれの業務に関して評価を受ける体制を準備することとなります。従来からの上司は、メンバーの業務量の調整を行ってプロジェクトに支障が無いようにする必要があります。

このような2つの系列での評価体制を社内に導入する際に最も注意しなければならないのは、必ず経営者が全社員に対して「このような評価体系にする」という宣言を行ない、メンバーが安心してプロジェクトに従事できるようにすることです。

2. 成果のみならず活動そのものを評価する体制を作る

事業創造型プロジェクトにおいては、売上や利益などの定量化できる成果を短期的に上げていくことは困難です。業績面での成果が発生してくるまでには、どうしてもある程度の期間が必要となってきます。このため、一般的な成果基準に基づく人事評価の仕組みでは、いつまでたってもメンバーの業務に対する評価が正当に行われないという事態を引き起こしてしまいます。

また成果が上がりだしても、プロジェクトチームの上げた評価としてではなく実務をおこなう現場の成果としてカウントされてしまい、プロジェクトチームのメンバー各人の人事評価に直結させることには困難を伴います。

このような状態になることを避けるため、プロジェクトチームについては成果基準の評価制度ではなく、行動基準=「プロジェクトのためにどのような活動を行うべきか、実際に行ったか」で評価していく仕組みが適しています。つまり、各ステップを進行していくためにとるべき活動内容やプロジェクトへの従事姿勢など、プロジェクトの進捗プロセスで求められる活動を設定し、これに関する評価基準を設けることで、活動内容そのものに対する評価制度を設定することが必要です。

3. ステップを細分化し短期での到達目標を明確化する
図:WBS (Work Breakdown Structure:作業分解図)

活動への評価を人事評価に加えるためには、各ステップをさらに細かい活動内容に分解し、それぞれの活動で達成しなければならない達成目標を設定することとなります。

具体的な手法としては「WBS (Work Breakdown Structure=作業分解)」という手法で活動内容を考えていきます。これはプロジェクトを推進していくために必要とされる作業を、図のような重層形式にチームメンバーで分解していきます。

「タスク」とは、例えば「市場調査⇒○○市場の調査」というような大まかな作業のくくりになります。理想的には40時間程度でひとつの作業が完了する「ワーク・パッケージ」と呼ばれるものにまで分解し、それぞれのパッケージでなさなければならない作業目標を設定していく形が望ましいのですが、事業創造型プロジェクトでの第2ステップまではタスク単位での活動内容の明確化で十分だと思います。

タスク単位にまで分解したならば、それぞれのタスクで想定される作業内容、達成すべき目標、担当部門・担当者、実行時間などを明確化します。

チームメンバーはリーダーもしくはサブリーダーに対して、この内容を一覧表などにして提示し、リーダー・サブリーダーはこれを承認した上で、進ちょく管理と評価に用いていきます。参考としてフォームをつけておきますので、ご利用ください。
表:「タスク分解」 (PDFファイル)

このように細かく分解して評価しやすくすることの意味として、人事評価面での効果の他に、常に何らかの短期的な成果を設定し達成することで、プロジェクトが確実に進捗しているのだという実感をプロジェクトチームに実感させるという効果もあります。また、短期的な到達目標を明確化することは、当初予定に対する進捗状況のチェック、当初想定外のリスクが発生した場合の軌道修正が容易となるなどの効果も得られます。


プロジェクトを進展させていくのはあくまでもプロジェクトチームのメンバーという「人材」です。この人材への配慮なしには、プロジェクトが円滑かつ効果的に進展していくことはないということをなによりもご理解ください。