中小企業のための「営業幹部」の育て方

はじめに

経営者にとって営業部門の強化は永遠の課題です。特に中小企業にとって、いくら優れた商品やサービスを開発しても、営業部門が実力を発揮しなければ業績は上がってきません。このため、皆さんの会社でも営業部門の幹部には営業担当者として高い実績を持つベテラン社員があてられているケースが多いと思います。しかしながら、思うように成果が上がってこないケースが多いのではないでしょうか。これは多くの場合、営業幹部の果たすべき役割や保有すべき能力などに関して誤解があることが原因です。

本稿では経営者が営業幹部に求めるべき能力、営業部門の生産性向上のための方策などについて解説してまいります。

営業幹部はプレイヤーではなくマネージャーである

まず最初に理解していただきたいのは、営業幹部に求められるのはマネージャーとしての役割でありプレイヤーではないという点です。

先に述べたように、多くの会社では営業部門の幹部にはプレイヤーとして高い実績を持った社員が就いています。プレイヤーに求められるものは、基本的には割り当てられた個人の業績目標の達成能力です。しかしながら、マネージャーに求められるものは計画を立て、部下に実行させ、進捗状況をチェックし、必要があれば方針や方向を修正するという「Plan‐Do‐Check‐Action」のPDCAマネジメントサイクルに代表される管理・統制能力です。

プレイヤー気質の抜けない営業幹部の場合、行動とチェック(Do、Check)を偏重し、計画と修正(PlanとAction)が苦手な傾向があります。しかしながら営業部門を任せる幹部に求められるのは、むしろ年度計画実現に向けての事前の綿密な計画を立てる能力と、部門の活動実績に対する冷静な評価に基づき適切な修正を加えていく能力です。

このような部門のマネジメントがおざなりになってしまうのは、単にプレイヤー気質が抜けないということもありますが、何よりも自分が幹部、管理職として会社から求められている「責任」に対する理解がなされていないことに原因があります。営業部門の強化を目指すならば、経営者は営業幹部に対して、自身が課せられている責任について十分理解させなければなりません。

営業幹部に自覚させなければならない「3つの責任」

営業幹部に自覚させなければならない責任には大きく次の3つがあげられます。それは、1. 業績目標に対する責任、2. 部下の育成に対する責任、3. 業務開発・組織改革に対する責任です。

1. 業績目標に対する責任

営業幹部には自分が預かる営業部門の業績に対する責任があります。これを全うするためには、会社が目指す将来像を理解したうえで部門の目標を立て、その実現のための推進計画を立案し、進捗状況を見極め、適切な状況分析による計画修正を行うという、先に述べたPDCAマネジメントサイクルを身につけさせなければなりません。そのためには最低限、次のような能力を習得させる必要があります。

事業環境分析能力
会社が業界内で置かれているポジションや顧客の変化、ライバルの動向など日常業務に直接関係してくるミクロ環境の変化に対する分析能力は必須です。また、より視点を広げて、経済環境や法律、社会情勢の変化、技術革新の進展度合いなどのマクロ環境の変化にも敏感になるよう求めなければ、業績目標達成のための適切な計画立案や実行は行えません。

計数管理能力
自社の業績や経営計画の理解は最低限必要です。また、自社の収益構造への理解などがなければ、業績指標として売上高ばかりを重視するようになり、適正な利益の確保の重要性がないがしろにされてしまう可能性があります。

2. 部下の育成に対する責任

プレイヤーとして優秀だった営業幹部は、どうしても部下を今現在の戦力ととらえ、長期的視野に基づいた人材育成を後回しにする傾向があります。このため、部下が描く自分自身の将来像に対する理解や、各人の適性への配慮を欠きがちになります。

経営者としては、今現在の業績も大事ですが、将来にわたって会社を支える優秀な人材の育成も重要な経営課題です。特に営業部門は事業活動の原点である売上と営業利益を生み出すための人材を育てていかなければならない部門であり、営業幹部にはその責任の自覚が求められます。

チームオペレーション能力
営業幹部に経営者が求めるものは、幹部個人の成果ではなく部門としての成果です。この実現のためには、部下をいかに合理的かつ効率的に配置し、営業部隊としての生産性を高めていくかという点が課題になります。部下のスケジュール管理なども含めたチームのオペレーション能力は当然不可欠なものとして身につけさせなければならない能力です。

コミュニケーション能力
一方的な命令では部下は育ちません。相互コミュニケーションによって部下の適性を引き出し、より戦力化することが営業幹部には求められます。
コーチングやカウンセリングなどに代表されるコミュニケーション手法はぜひとも習得させたい能力です。

3. 業務開発・組織改革に対する責任

プレイヤータイプの営業幹部は過去に強烈な成功体験を持っている場合が多いため、業務の進め方や組織の指示命令系統などに対して保守的な傾向が強いものです。会社が経営を革新しようとする場合などに「今までうまくいっていたのにわざわざ変える必要などない」と抵抗勢力化する営業幹部も多く見受けられます。
経営者として、このような営業幹部に対しては長期的視野に立った企業経営の必要性を理解させることが求められます。

戦略策定能力
単に営業部門の年度目標達成という短期的な取り組みにとどまらず、会社全体を視野に入れた、より中長期的な戦略を検討できる能力を獲得させるよう働きかけて下さい。

プロジェクトマネジメント能力
営業部門では月次単位での業績把握がどうしても中心になります。しかし営業幹部であれば、より長期的に組織を運営していく視点を確立させる必要があることは言うまでもありません。このためには、業務を一連のプロジェクトとしてとらえ適切に運営・管理していくプロジェクトマネジメントの能力が求められます。

このように、営業幹部に求められる責任を果たすために習得させるべき能力は多岐にわたります。皆さんの会社の営業幹部の現状はどうでしょうか。参考として、自社の営業幹部の不足している能力をチェックするための一覧表をつけております。ご参考になさって下さい。
表1:営業幹部 能力チェックリスト

業績目標達成のためにまず取り組ませたい活動

業績目標を達成させるためには、営業幹部が中心となって営業部門の生産性を向上させていく必要があります。営業部門の業績として最も分かりやすいものとしては、部門の受注総額ならびに営業担当者一人当たりの受注額があげられます。では、営業幹部にどのような観点から部下を指導させれば受注額は向上するでしょうか。

効果的なプロモーション活動を行う、素晴らしい企画提案書を作成する、ほれぼれするようなプレゼンテーション技術やセールストークを研修などで習得する。いずれも確かに重要ですが、営業幹部に目を向けさせたいものとして最も根本的で、かつ最も重要なものがあります。それは営業担当者の「受注に向けた活動の絶対量」です。

成果(この場合受注額)は次の掛け算によって生まれてきます。
成果 = 保有能力(〜できるチカラ)×実施した活動量(〜の活動を行った量)

営業担当者がいくら優れた能力を保有していたとしても、実際の受注活動の量が不足していたならば望むような受注は獲得できません。一方、少々見劣りする能力しか保有していなくとも、活動の絶対量が多ければ受注成果は(ゆっくりとではあっても)必ず達成されていきます。

ここで営業幹部に検討させなければならない課題は、どのようにして活動の絶対量を増加させるかという点になります。
実際、ほとんどの営業現場では残業に次ぐ残業でこれ以上の活動時間を確保することは不可能なように見えます。しかし、本当にそうなのでしょうか。

図1:営業活動内容の内訳例

図1は法人向けの営業活動を行う平均的な営業担当者が、勤務時間中に行っている活動内容を分類したものです。活動はまず大きく社内活動と社外活動に分類されます。多くの営業幹部は社外活動=営業活動ととらえる傾向があります。しかしその内容をよく観察すると、受注に向けて実施した活動といえるものは「得意先訪問」の中の「発展的商談」の部分だけであることがわかるかと思います。納品や集金、クレーム処理は受注後の単なる業務処理に過ぎません。クレームが商談につながるなどと書かれている書籍などもありますが、本来クレームの発生は会社の信用を傷つけるものであり、その処理は受注に向けた活動時間を著しく減少させるマイナスの活動です。

一方、社内活動に眼を向けると「TEL/メールでの商談」「商談用の資料作成」「顧客・見込み客からの問い合わせ対応」が直接成果に結びつく活動です。「会議・打合せ」もその内容が建設的なものであれば間接的に成果に結びつきます。

経営者の皆さんは自社の営業幹部に、部下の行動を次の4つの切り口で分類し、それぞれの消費割合を認識させてみて下さい。

  1. 受注に有効で売上増加につながる活動時間
  2. 受注活動のために必要だが受注とは直接関係のない時間(移動時間など)
  3. 受注後の業務処理のために使われている時間
  4. 受注に直接つながらないうえに誰がやっても構わない活動に使われている時間

いかに非効率に時間が使われているかが見えてくるかと思います。
ちなみに筆者のこれまでのコンサルティング経験では、中小企業の営業部門で、1.の活動に使われている時間は多くとも30%程度、一方2.と3.の活動に使われている時間は大多数の会社で50%以上というのが実感です。特に営業部門では非効率的な移動時間で貴重な時間が使われるケースが目立ちます。

活動内容を時間配分をもとに分析すると、業績目標達成のために営業幹部が取り組まなければならないこととは、営業活動内容の見直しであることが見えてきます。しかしながら、ここで営業幹部に「業績向上のための活動にもっと時間を使え」と指示させるだけでは営業部門の生産性は向上しません。なぜなら、部下たちは怠慢だから受注増に向けての活動をしていないのではなく、煩雑な業務が多すぎるために時間が絶対的に不足しているのだと考えなければなりません。

あなたが経営者であり、優秀な営業幹部を育てたいと考えるのであれば、部門の活動内容そのものをリストラクチャリング(再構築)するよう指示しなければなりません。

営業活動の分析結果に基づき、次のような手順で業務手順や担当を最適な形に変えていく計画を営業幹部に指示し、実行させてください。

まず、4.の受注に直接つながらないうえに誰がやっても構わない活動については、本当にその活動が必要かどうかを見定めます。不要ならば思い切って削減させましょう。削減が難しければ外部に委託できないか、ITの活用により効率化できないかなどを検討させます。

次に、3.の受注後の業務処理ですが、これは徹底して効率化と標準化を考えさせてください。多くの場合、同じ内容を複数の報告書や依頼書に記載する、社内の提出先ごとに書式が異なっているなどの非効率が小さな組織でも存在するものです。

最後に、2.の受注活動には必要だが受注に直接結びつかない活動については、効率的な訪問活動を行うための週間・月間計画の策定や、場合によって担当顧客の入れ替えなどによる効率化を図る必要があります。

このような取り組みを営業幹部に行わせることによって、絶対的な活動時間の拡大を図り、業績目標達成への道筋が見えてきます。
また、同時にプレイヤー出身の営業幹部にこのような業務改善の計画と実施を行わせることは、業務改革・組織改革に対する責任を自覚させるうえでも重要な経験になります。

部下の育成能力を高める基本はOJTへの取り組み

企業経営において、社員の能力を高めることは永遠の課題です。特に従業員数の少ない中小企業においては、社員一人一人の能力をいかに高めていくことができるかが、そのまま競争力の源泉となります。当然、営業幹部に対しては、数値目標を上げるだけでなく、部下を適切に指導育成していく能力を獲得することが求められます。

部下の指導育成の方法としては、社内外での研修などを中心とするOff‐JT(Off the Job Training:職場外訓練)、部下の自発的な自己啓発に対する支援などもありますが、やはり最も効果が高く、かつ日常的に取り組むことができるのは業務を通じたOJT(On the Job Training:職場内訓練)への意識的な取り組みであるといえます。

営業幹部が行う部下に対するOJTとして最も効果が高いのは、顧客ならびに見込み客に対する同行訪問です。同行訪問は部下の業務習熟レベルを確認し、その向上を図るための方法を商談という実体験を通じてレクチャーしていくことになるため、即効性が高いメリットがあります。また、同行訪問の際には部下との間で、通常よりも深いコミュニケーションを持つ必要があり、相互理解のよい機会にもなります。

営業幹部の能力育成という観点から見た場合も、適切な助言を与えるためには事業環境の分析や自社の中長期の戦略への理解、コーチングやカウンセリングといったコミュニケーション能力の発揮など、営業幹部として獲得すべき能力の実践での訓練の場となります。
表2として同行訪問の際のチェックリストの実例を示しています。参考になさってください。
表2:営業活動同行訪問 指導チェックリスト

経営者として営業幹部によるOJTとしての同行訪問が行われた際に注意しておくポイントは、同行訪問実施後に部下との間でどのような「対話と検討」が行われたか、その内容は適切なものであったか、結果として部下の能力向上はなされたかという点です。これらの点に疑問があるようであれば、経営者は営業幹部との間で指導育成のあり方について協議する必要があります。営業のベテラン=優れた指導ができる幹部では必ずしもありません。会社として育てたいのはどのような人材であるかを最も理解しているのは、経営者です。このような協議の場は、経営者による営業幹部に対するOJTそのものであると考え、積極的に実践するように心がけていただきたいと思います。

そのような協議の場で営業幹部の能力向上に停滞が見られるような場合には、外部で行われている研修などに積極的に参加させることも有効です。営業幹部はどうしても自己の経験から物事を判断する傾向がありますので、プレイヤーの視点に縛られてしまうことがあります。研修などのOff−JTには社外の第三者からの指導・指摘によって、これまでとは異なる新たな視点の発見につながる効果があります。なおその際には、精神論的な内容の研修ではより偏った視点になりかねませんので、部下への指導育成に応用が利きやすいような原理原則をカリキュラム内容とするものを選択することをお薦めします。

営業部門は会社の対外的プロモーション実行部隊

営業部門はややもすると「業績をあげれば文句はないだろう、文句は言わせない」とばかりに社内でアンタッチャブルな扱いを求めてきます。これは大きな間違いです。

どのような会社であっても、営業部門は会社を代表して自社の商品やサービス、経営姿勢、お客様に対する考え方などを伝えていく、対外的プロモーションの実行部隊です。皆さんの会社の社会的な評価やブランドを向上させることができるのは、営業部門に他なりません。決して売上をあげるだけの集金部隊などではありません。
当然そのような活動を、部下を率いて行っていく営業幹部には、高い能力と品格が求められます。

経営者は自社のビジョンや経営理念、中長期の経営戦略などについて、常日頃から営業幹部と密接にコミュニケーションをとり、十分理解させるように努力することを怠らないようにするよう、意図的に心がけていただきたいと思います。