事業計画を達成させろ!〜戦略を絵に描いた餅でおわらせないために〜

練りに練った戦略がなぜ実行段階で頓挫するのか

経営環境が劇的に変化する中、新たな事業分野への進出や新製品の開発、新規販路の開拓などを主眼とした中期的な経営戦略の見直しを図っている企業は多いと思われます。

筆者も業務柄、規模の大小を問わず多くの企業の経営戦略策定の支援に携わっています。特に中小企業政策の柱として、企業の経営革新活動に対する支援が打ち出されて以来、中期的な経営戦略を立案し新たな取り組みを積極的に行おうとする中小企業が年々増加しています。実際、経営戦略の企画・立案に際してはどの企業でも社内スタッフの英知を結集した、練りに練った素晴らしいものが最終的には仕上がってきます。

しかしながら残念なことに、その素晴らしいはずの戦略を完遂することができる企業は決して多くないのが現実です。
多くの企業では初年度の段階で戦略上の目標を達成できず、2年目以降は目標を大幅に下方修正したり、あるいは戦略そのものを放棄してしまったりしています。

このような企業に対し「なぜそうなったか」とお伺いすると、その大多数が「経営環境に関する見込みが外れた」「現業が多忙で新たな取り組みに経営資源が割けなかった」「思うようなタイミングで新製品や新サービスが開発できなかった」とおっしゃいます。
しかし、それは本当のことですか?

もちろん、想定外の事態が発生するリスクというものはどの企業にも常にあります。戦略の立案時には不確定要素だったことが、実行に際しては大きなボトルネックになることもあるでしょう。しかしながら、多くの企業で戦略実行が上手くいかないことの原因には、もっと異なる、より根本的な原因があります。
それは、戦略立案の際に、実行のための手順と体制に関する検討が不充分であるということです。

戦略の企画・立案から実行には、概ね次のような4つのステップが存在します。(図1)

図1:戦略の企画・実行に関する4つのステップ
 目的
Step1 現状認識外部・内部環境分析による戦略の必要性に関する認識強化
Step2 アウトライン策定対象領域・事業、推進方針のアウトラインの決定
Step3 具体化と明確化戦略内容の明確化と具体的推進体制の決定
Step4 実行と定着戦略の各部門での実行と進捗管理

第1ステップ:現状認識
どのような経営戦略・事業戦略であっても、企業が直面している事業環境の変化に関する分析と自社の経営状況ならびに経営資源の状況に関する分析が必要不可欠です。このステップは経営陣が戦略着手に向けての意思統一を図ることが目的となります。

第2ステップ:戦略アウトラインの策定
現状認識のステップで明らかになった情報を基に、戦略方針を決定していくステップです。中期経営戦略であれば各事業分野での取り組み内容の概略と経営目標数値の策定、個別事業に関する事業戦略であれば対象市場や戦略商品・サービスの検討と数値目標の策定を行います。企業全体としての年度ごとの取り組み内容を検討、決定することが目標となります。

第3ステップ:内容の明確化と具体的推進策の策定
戦略の内容を各部門の具体的な取り組みに落とし込み、個別具体的な実行内容の策定と部門ごとの推進スケジュールを確定させるステップです。戦略を実際の指揮命令系統に乗せ、実行していくための重要なステップであり、部門ごとの目標数値の設定も必要となります。

第4ステップ:実行と定着
戦略を日々の業務として実行し、組織へ定着させていくステップです。戦略内容は企業内の各個人別に分解され、各員の月次・年次等の目標として設定されます。それぞれの取り組みは各部門で集約され、部門別の予定と実績の評価などが行われます。

この4つのステップを企業での実務として考えた場合、第1・第2ステップと第3・第4ステップとでは担当部署ならびに業務内容が大きく変わることに気づくと思います。
第1・第2ステップは分析と戦略立案ですので、経営陣と企画部門などのスタッフが主要な担当者であり、全社的な方向付けと数値目標が設定されることとなります。
一方、第3・第4ステップは製造や営業などのライン部門における、実際の業務の計画と管理が必要となります。
多くの企業で戦略として立案されるものは、実はこの4つのステップの第1・第2ステップまでのものがほとんどです。そのような企業では第3・第4ステップに関しては現場任せであり、数値目標に関する予算・実績の管理が優先されます。

しかしながら、戦略とは数値目標を定めただけのものではありません。実際の事業活動としての取り組みを立案したものであり、その主体はライン部門の活動となります。 戦略が実行段階で頓挫するのはなぜか?それは実際のライン部門での事業活動への落とし込みと、その具体的な推進スケジュールまで配慮していない「机上の空論」の戦略にとどまっているからなのです。

実行計画の立案と進捗チェックはどのように行うか

それでは、戦略をどのように実行可能な計画として組み立てていけばよいのでしょうか?考え方の基本は次の2つです。

ここからは戦略を細分化し、実行しやすい作業レベルにまで落とし込むための標準的な4つのステップを紹介します。

1. 取り組みに必要な活動内容を洗い出す

通常、戦略に示されている取り組みでは「新製品開発」や「新市場開発」などの大きなテーマの下での、年度ごとの大まかな項目が示されています。まず、この取り組み内容をPPP法(Phase Project Planning)と呼ばれる手法を使い、部門ごとの活動としてより詳細化していきます。
図2は製品開発を例に取った研究開発部門とマーケティング部門での取り組み内容の詳細化です(図2参照)。このように戦略を実際の業務として実行する場合に必要とされる実施項目に分解し、その戦略に関わる各部門での業務分担を明確化していきます。

図2:フェーズ管理法 (PPP: Phase Project Planning)
               コンセプト検討事業化・商品化可能性調査製品開発
              研究開発
            • 技術情報収集
            • 探索研究
            • 予備実験
            • 基本性能把握⇒再現性確認
            • 要素技術研究⇒主要仕様確定
            • 基本特許(要素技術)
            • 関連特許(試作品)
            • 品質安定⇒用途開発
            • 工程開発⇒品質管理技術開発
            • 改良研究 (⇒量産品試作)
            • 応用特許 (⇒製品改良)
            • マーケ
              ティング
            • 市場ニーズ予測
            • アイディア発想
            • 製品化コンセプト確定
            • 競合調査
            • 差別化検討⇒差別化ポイント決定
            • 市場調査⇒市場性評価
            • 試作品供与・ユーザ評価
            • 市場競争力把握⇒用途開発
            • 販売価格決定
            • 販売チャネル設定
            • 量産プロト品販売
            • 課題内容を分解し、具体的作業レベルにまで落とし込んでいく

              2. 活動内容をアクションプランとしてスケジュール化する

              実施項目が明確化されたならば、次にこれをスケジュールに落とし込んでいきます。それぞれの実施項目を、優先順位、相互の関連性などを配慮しながら月次単位レベルでの推進スケジュール化し、アクションプランとしてまとめ上げていきます。この作業の際には図3にあるような「ガントチャート」形式でビジュアル化すると良いでしょう(図3参照)。

              図3:ガントチャート形式による明確化
              図3:ガントチャート形式による明確化

              次にそれぞれの実施項目に関して、到達目標をマイルストーン(里程標)として設定していきます。
              この作業を行っていく上での注意点は次の通りです。

              3. 各実施項目に必要な経営資源を抽出し実現可能性を高める

              次に戦略の実現性をより高めるために、実行に必要な経営資源(人・設備・ノウハウやライセンス・資金)を検討し、自社の実情と勘案していきます。図4はその参考事例です(図4参照)。

              図4:経営資源の抽出作業
              個別アクション→経営資源→経営資源の質と量
              要素技術開発
              (個別アクションで必要とされる経営資源を
              設備、人員などに分類し、整理していく)
              開発用設備 検査機 1000万×1台
              パソコン 30万×4台
              開発用ソフト パッケージソフト 200万
              ソフトカスタマイズ費用 120万
              特許ライセンス料 月額30万×6か月
              開発担当者 主任研究員 1名×800万/年×0.5年
              設計担当者 3名×600万/年×0.5年
              大学への委託費 月額12万×6か月

              ここで、留意しなければならないポイントとしては次のようなものが挙げられます。

              4. 各実施項目を細分化し、個別作業レベルにまで落とし込む

              最後に、各部門の担当者の実作業レベルにまで戦略を細分化していきます。この作業は各部署のマネージャークラスによって実施させると良いでしょう。具体的には、プロジェクトを完遂するために必要とされる作業をまず「WBS(Work Breakdown Structure=作業分解図)」という重層形式に分解します(図5)。

              図5:WBS(Work Breakdown Structure:作業分解図)
              図5:WBS(Work Breakdown Structure:作業分解図)

              理想的には各タスクは、40時間以内でひとつの作業が完了する「ワーク・パッケージ」と呼ばれるものにまで分解されるべきですが、そこまで詳細化にこだわる必要はありません。大まかなタスク単位での分解で十分です。逆にあまりにも詳細化しようとすると戦略実行上での柔軟性を失い、予想外の事態が少しでも発生した場合に戦略そのものが停止してしまいます。
              タスク単位にまで分解したならば、各単位で想定される必要作業内容、達成目標、遂行順序、担当部門・担当者、予想実行時間などを明確化していきます。
              実際の現場での進捗管理や評価はこの細分化したものを使って、現場のマネージャーが行う形となります。

              事業環境の変化をとらえる視点として何が必要か

              さて、このようにして実行レベルに至るまで練りこんだ戦略であっても、事業を取り巻く環境が変化するリスクからは逃れられません。戦略の立案時点で検討したマクロ・ミクロ両面での情況が大きく変化してきていないか、常に注意を払っておく必要があります。

              マクロ環境の変化については4つ、ミクロ環境の変化については5つの視点から環境変化をとらえることをお薦めします。

              マクロ変化の4つの視点

              ミクロ変化の5つの視点

              これらのリスク要因に関して留意すべき点について、主だったものを(表1)にまとめております。ご参考になさってください。

              (表1)
              マクロ環境
              経済的状況
              • 戦略の前提となっている経済環境はどのようなものか
              • 前提としている経済状況について定量的に把握しているか
              • 将来的にどう変化すると予測したか、その根拠は何か
              • 戦略の前提よりも低成長あるいは高成長の場合の対応策は検討しているか
              政治的状況
              • 何らかの法的規制、あるいは優遇的な政策が出てくる可能性はあるか
              • 戦略に影響を与えるような規制緩和や規制強化に関し国内外での動向はどうか
              • 緩和や強化の実施時期はすでに決定されていないか
              • 実施時期が前倒しになった、あるいは後送りになった場合の影響度はどうか
              社会的状況
              • 戦略の前提となっている社会的な状況はどのようなものか
              • その状況が予想よりも短期化あるいは長期化するような動きはないか
              • 一過性の状況と、中長期の構造的な変化の両面を検討しているか
              • 前提となる社会的状況が一変する可能性としてどのようなものを想定しているか
              技術的状況
              • 業界構造を一変させるような技術開発は行われていないか
              • 海外での先進的な事例などに関してはどのようになっているか
              • 戦略の前提としている技術が予想よりも早く陳腐化した際の対応策はあるか
              • 生産や管理などにおける技術革新に関しても留意しているか
              ミクロ環境
              業界動向
              • 業界での取引ルールや慣習などに変化は起きていないか
              • 戦略が業界で反発された場合の対応方針は決定しているか
              • 業界での最近の動向は注視しているか
              • 業界の主要企業の経営戦略などに変化は起きていないか
              調達動向
              • 設備や人材、資金などの調達環境に変化は起きていないか
              • 量的に調達できない場合の代替策は検討しているか
              • 質的に調達できない場合の代替策は検討しているか
              • サプライヤー業界、金融業界などの変化はどうか
              顧客動向
              • 対象顧客は戦略で想定しただけのボリュームで存在するか
              • 対象顧客のニーズに大きな変化は起きていないか
              • 対象顧客の購買決定要因に大きな変化は起きていないか
              • 将来的にも対象顧客層は成長し、ニーズは継続するか
              競合動向
              • 実際に展開しようとする地域での競合企業のシェアに変化はないか
              • 競合企業の商品やサービスに変化はないか
              • 競合企業の商品やサービスの提供方法に変化はないか
              • 競合企業に対する対象顧客の評価に変化はないか
              製品動向
              • 顧客ニーズを解決するもっと簡単な方法が出てきていないか
              • 自社の商品やサービスが模倣された場合の対応策は検討しているか
              • 自社が展開しようとする商品・サービスに似たような先行品は出てきていないか
              • 想定よりも早く低価格化が進んだ場合の対応は検討しているか
              戦略成功のために経営者が果たさなければならない役割は何か

              最後に、経営者が戦略の成功のために果たさなければならない役割について解説する必要があります。
              「経営者自らが戦略実行を推進することが成功のカギである」とよく言われることです。これは確かに正しいのですが、実際には経営者が特定の戦略遂行にのみ、その時間を割くことは困難です。ではどうすべきなのでしょうか。

              次のような点について全社員、特に戦略を実行する担当者に対して示し続けること、それによって戦略遂行の正当性と重要性を常に意識付けることで、直接戦略実施に参画するに等しい効果を発揮できます。

              1. 経営者でなければ打ち出せない高い戦略目標を具体的に示す
                企業の将来ビジョンを示し、現状からの脱却を図るような高い戦略目標を経営者自身が示す必要があります。社内のどれほど優秀な部門や人材であっても、現状とのギャップが大きい戦略目標はなかなか示せないものです。高い目標を経営者が示すことにより、自社を新しい方向に進めていく経営戦略・事業戦略の必要性が、社内のみならず社外に対しても認識されます。

              2. 戦略に対するコミットメントと意思決定を続ける
                戦略の着手時点ではどのような経営者でも全面的なバックアップと取り組みの正当性に関するコミットメントを誓います。しかし往々にしてこれが単なる激励に終わり、その後の積極的な関与につながりません。経営者に必要とされるのは戦略に関与し続けることと、担当部門や担当者が打ち出してくるアイディアや解決策に対して明快な意思決定をタイムリーに行うことです。現場への無責任な全面的な委託や意思決定の先延ばしは、最も避けるべき姿勢です。

              3. 一貫した姿勢で強いメッセージを社内に示し続ける 革新的な戦略の場合、従来の業務遂行方法に変更を迫られる部門なども生まれてきます。彼らを納得させ、戦略の成功に向けて協力させるためには、何故このプロジェクトが必要とされるのか、いつまでに達成しなければならないのかを、あらゆる機会を見つけて経営者自らが発信し続けなければなりません。部門長への指示で事足りているなどと考えないことです。通常の指揮命令系統だけでは、経営者の考えが企業の隅々にまで浸透することは期待できません。

              戦略の実行は企業の総力戦です。経営者から末端の社員に至るまで、すべての関係者が一丸となって取り組まなければ成功しないものです。実際の戦略実行の際に必要となるPlan−Do−Check−Actionのマネジメントサイクルを立案段階から意識し、体制として整えることが、机上の空論ではない実現性の高い戦略を生み出していきます。