事業再生計画からの飛躍〜創造的破壊と事業の変革〜

はじめに

計画は作り上げたものの、業績目標がクリアできずに事業再生の進捗が思わしくない中小企業は多い。弊社に金融機関や行政系の中小企業支援機関などを通じて持ち込まれてくるご相談でも、事業再生計画はすでに立案され、経営のスリム化などの組織面での変革は実行し、損益分岐点の引き下げには成功しているものの、再生の鍵となる売上高・営業利益の確保がうまくいかず事業再生が難航しているケースが多い。

本稿では、弊社が関与した事例を基に、中小企業の業績目標達成と企業変革のための手順を、マーケティング活動面を中心に解説する。

事例企業の状況

A社は、北陸地方に本社を持つ産業資材メーカーである。同社の主要商材は耐熱・耐火煉瓦であり、多くは電炉や製鉄会社等の融解炉など大型施設向けのものである。

同業界は、もともとが戦時中に国策会社として設立された企業が大半であり、この経緯から業界での取引先は按分されており、各社の主要取引先に関しては永年、相互に不可侵の暗黙のルールがある。
近年は耐熱セラミックスにシェアを奪われ続けており、業界そのものが沈下傾向にある。
A社の主要取引先は2社であり、売上の60%以上を依存している。

このような状況の中、A社は2年まえに銀行団ならびに公的な中小企業支援機関と共同で再生計画を立案、実行してきた。遊休不動産の売却などにより、当面のキャッシュフローは改善されたが、目標売上高の未達成、営業利益の横ばいという状況にある。この状況を打破すべく、同社では大学や公的試験研究機関などと共同での技術開発ならびに新商品開発を行い、いくつかの画期的商品の開発にも成功したが、売上には結びついていない状態にあった。

このような中、弊社は売上向上を主眼としたコンサルティング依頼を受け、同社に1年間の支援を行うこととなった。

ヒアリングの実施

同社の経営者(2代目:50代)に対する現状ヒアリングと再生計画のレビューを受けた後、同社の主要幹部を集めヒアリングを実施。その結果、同社の体質的な問題点として以下のポイントが浮き彫りとなった。

  1. 主要取引先2社に売上を依存しているため、営業幹部の活動はこの2社の購買部門に対する売上維持のための訪問活動に終始。若手の営業担当者はそれ以外の取引先の受発注業務などにより社外に出る機会さえ少ない。
  2. このような依存体質のため、主要取引先に対しての価格・納期などに関する交渉力が弱く、売上高の割には利益があがらない。また、生産計画もこの2社の都合に左右されており、弾力性をなくしている。
  3. 永年このような状態が続いているため、エンドユーザーのニーズ変化に疎く、新規開拓活動も活発ではない。
  4. 若手社員を中心に、技術開発や素材開発などを行っており、技術レベルも向上して生きており、事実、有望と思われる新商品も出てきている。しかしながら新規開拓などが不十分であるため、新商品の提案先の絶対数が少なく、受注に結びつかない状態。このことが、若手社員のモチベーション(志気)低下を招いている。
  5. 営業事務作業などが煩雑であり、誤納、遅配、数量間違えなども多発。クレーム処理に多くの時間を割かれている。このことも遠因となり、過去10年の取引先の内、現在も取引が継続している取引先は10%に満たない。

このような状況から、同社の課題は次の2点にあると考え、コンサルティングを実施した。

コンサルティングの実施
図1:営業活動の4つの段階
図1:営業活動の4つの段階

企業の営業活動は図1のように、大きく4つのステップに大別される(図1参照)。

A社の営業活動は主要取引先2社に対する「関係強化」と「関係維持」のみであり、顧客数拡大のための「新規開拓」、利益率拡大のための「提案営業」はほとんどなされていなかった。これは同社のみの問題ではなく、競合他社も概ね似たような状態にあることがヒアリングからわかった。なお、このような営業実態はA社やその業界のみの特殊なものではない。

図2:中小企業の営業活動実態
図2:中小企業の営業活動実態

図2は中小企業庁が2002年に発表した中小企業の営業実態であるが、新規開拓活動を積極的に行っている(飛び込み訪問、DM、展示会出展など)は全体の3割程度であり、大多数の企業が「取引先との密接な情報交換」にのみ力を入れていることが判る(図2参照)。

これは裏を返せば、少し積極的に競合他社よりも新規開拓活動を行えば、それだけユーザーならびに業界に対して効果が出しやすいということになる。特にA社の業界の場合、長年取引先が固定化されており、(競合からの反撃を食らう可能性はあるものの)積極的な顧客開拓や代理店開発が功を奏す可能性が高いことが予想された。

このこと踏まえ、先にあげた課題解決のため、以下の手順にてコンサルティングを実施した。

第1ステップ:現状認識の強化と方向性の統一

顧客維持率が異常に低い現状に対するショック療法として、また新規開拓活動の必要性を認識させるための起爆剤として、顧客満足度調査という名目での顧客の不満調査を、過去5年の取引先ならびに代理店に対してアンケート実施。回収率自体も30%を割り込むというものであったが、その回答内容は散々なものであった。

A社はここ数年、高付加価値商品の開発による差別化を狙って研究開発活動を意欲的に行ってきていたにもかかわらず、取引先の評価は「低品質」「低価格」「魅力的な新商品がない」という製品評価、「ミスが多い」「クレーム対応が悪い」という事務評価、「営業担当者が来ない」「製品カタログが送られてこない」「問い合わせに対するレスポンスが悪い」という営業活動評価と、自社がここ数年取り組んできたことがまったく取引先や代理店に評価されていないことが判明した。

この結果は、事業再生の対象企業となった事実よりも社内に危機感を醸成、経営者を中心に「過去からの脱却と新生」をテーマとして若手中心に「営業」「製造」「開発」の3つのプロジェクトチームが自主的に立ち上げることとなった。この際に、コンサルタントとして、今後の自社の方向性のベクトルを合わせるため、「ターゲット顧客」「製品によって取引先に提供する価値」「自社が獲得すべき独自能力」という事業領域(ドメイン)を形成する3つの要素を検討し、具体的な達成目標と活動計画を策定するように支援を行った。

第2ステップ:個別戦略の策定と目標の設定

次のステップとして、それぞれのプロジェクトチームに年次・4半期・月次の取り組み課題と目標を細かく設定させた。

中小企業において、あらたな取り組みが頓挫しやすいのは、少ない人員・設備・資金で現在の事業活動を回しながら改革への取り組みを行わなければならないという現実があるためである。現業で必要とされるリソース(経営資源)の確保が優先事項であることは動かしがたい事実であり、改革のためのリソースは当初から想定して現業への影響を最少化するように計画しなければ実行できない。

このためにはまず、新たな取り組みにおいて、いつまでに何をどれだけ達成するのか、そのためにはどれだけのリソースが必要となるのか、そのリソースを確保するためには現業をどれだけ効率化してリソースを搾り出すのかを考えさせなければならない。

A社では、それぞれのプロジェクトチームから理想と思われる目標と取組課題を提出させ、必要とされるリソースを年次・4半期ベースで提示させた。これを月次に分割させ、上記の観点からリソース確保可能かどうかを検討、調整を繰り返させた。この過程で、現業側での必要リソースを圧縮するための方策を「改善課題」として抽出、検討、試行させていくプロセスを繰り返した。

主要課題である営業部門では、稼動顧客数の増加と新規開拓のための新たな有望代理店開発にそれぞれ件数目標を定め、週2日は若手担当者がこの活動を行うこととした。同時に、その時間確保の上でボトルネックとなっている営業事務作業にとられている時間・人員をどのように圧縮していくかを最初の課題とすることとなった。見積作業の定型化、受発注窓口の一本化、事務職員の教育を実施。若手営業担当者による単純作業を徹底的に排除し事務職員に移管することでリソース確保を行った。

次に非定型業務である企画書や提案書については標準企画書を作成し、個別要件に応じてカスタマイズすること、作成した企画書・提案書は社内で閲覧・再利用可能とするため製品情報とともにデータベース化し、徹底的に作成効率を向上させる策をとった。

第3ステップ:実行と定着、マネジメントシステムの導入

第1・第2ステップに4ヶ月をかけ、十分に検討を加えた上で、実行段階に移行するための報告・連絡体制を、特に製造プロジェクトチームとともに準備。受注予定と製造側の製品別の生産ライン稼動状況、在庫状況が連動するよう情報共有の仕組みを構築することとした。経営者はITシステム化を望んだが、当面は紙ベースでのやり取りで十分と判断し、システム化は在庫管理部分のみとし、それ以外に関しては将来課題とすることとした。

従来A社は営業幹部が個人ベースで主要取引先を管理する体制をとっていたが、これを経営者に担当変更し、事後報告ではなくリアルタイムで経営者が自社の主要取引先からの受注状況、案件進捗状況が把握できる体制にあらためた(当然抵抗はあったが)。

営業活動に関しては、月次で行動管理していたものを、計画は週単位、報告は日次に変更。業務効率上ボトルネックになっていた営業日報も簡便なものに改め、電子メールで経営者に報告する形式に変更した。これによって、現在進行中の全案件の情報が経営者に集約されることとなり、懸案事項も経営者が直接担当者に指示できる体制に変更、取引先の要望に対するレスポンスが格段に向上することとなった。

経営者にとっては負荷のかかることとはなったが、従来経過報告に費やしていた多くの時間が圧縮され、戦略や課題解決策の検討により多くの比重がおくことができるようになった。まさに、PLAN(計画)⇒DO(実行)⇒CHECK(評価)⇒ACTION(課題検討)という一連のマネジメントサイクルが回転し、低下していたモチベーションも若手を中心に向上する結果となった。

効果

この取り組みにより、A社の売上は初年度で120%、次年度受注予測で250%を実現。積極的な開拓活動により、稼動客数も倍増。主要取引先2社の売上高占有率は(1社の不調もあり)35%にまで低下した。

このような数値的な影響だけでなく、新規開拓・代理店開拓活動を積極化したことにより、特に代理店業界ではイメージが一新され「レスポンスが速く魅力ある提案をする企業」という評価が2回目の顧客満足度調査では目立つ状況になっている。

また、大手商社などから共同での海外事業の打診、従来取引のなかった業界からの問い合わせなども発生してきている。

事業活力再生のためには

最後にまとめとして、本事例から読み取れる事業活性化のポイントを述べる。

  1. 業績目標を達成するためには、それを実現するための具体的戦略と細かな目標設定、具体的な活動計画、実施できるだけのリソース確保が重要である。
  2. 企業が持つ自社の業界でのポジションのイメージと、市場や取引先、競合他社が現実に持っているイメージには齟齬がある。現実に対する冷静な認識がなければ、再生計画は企業側の希望的観測ばかりになってしまう。
  3. 経営者の責任感を培わせるための「仕掛け」が必要である。精神論で業績が向上するほど企業経営は甘くない。あえて追い込むことも考えるべきである。
  4. 組織構造は必ず変革させるべきである。現状の組織はこれまでの仕事のやり方に合わせたものであって、事業再生、事業活性化のための組織ではない。業務フローも同様であり、生まれ変わるためには今までの改良や改善ではなく、根本から見直し築きかえる創造的破壊が必要である。